「あ、あれ? 他のみんなは……」

「大体帰ったみたいだよ。最後に来る人と一緒に、後片付けと鍵をお願いって言われて……」

 ホワイトボードを見上げる。

そんな習慣は、うちの部にない。

いつも最後にはここで集まってから、顔だけ合わせて解散だ。

それなのに今日は、希先輩もみゆきも山本も帰っている。

いや、帰ったことになっている。

彼女と目が合った。居心地の悪さにスマホをチェックする。

「……。あ、ホントだ。メッセ入ってた……」

 なんだかハメられた気がする。

さっきまであいつら体育館横にいただろ。

手にしたスマホではこの空間の雰囲気を誤魔化すことしか出来なくて、俺は意味もなく画面の上をウロウロとしている。

「ようやく現れたか」

 その声に顔を上げた。

目の前の空間がぐにゃりと歪み、チビ龍が姿を現す。

それはもう、恐ろしいというより、なんだかちょっとかわいらしい。

「ねぇ、そんな簡単に姿見せて平気なの? そういえば、落ちて来た時は人間の女の子じゃなかった?」

「そこから見ていたのか」

 チビ龍は舞香の頭の上に、とぐろを巻いて座った。

「人の姿に化けると、あぁなってしまうのだ」

「今も化けとけば?」

「……。そう易々と言うな」

「宝玉がないから半透明で透けてるし、能力も全部発揮出来ないんだって」

「じゃあもうさっさと天上に帰った方が……」

「宝玉をなくしたままで、帰れるか」

「あぁ……」

 ため息が出る。

やっぱりそこは、クリアしないといけないのか……。

「じゃあそれが見つからないことには、俺たちはキミから解放されないってワケ?」

 キーボードを打つ舞香の手が止まった。

じっと俺を見つめる、彼女のその視線の意味が分からない。

うろたえ始めた俺に、チビ龍はかま首をもたげた。

「乗り気でないのなら、無理に探す義理はない。なんなら記憶ごと消してやってもいいが、宝玉のないことにはそれも叶わぬ。手伝えとは言わない。私たちのことは黙っていてくれ」

「あー……、うん。それは約束するよ。じゃあ、どうすればいいのかな。もっと具体的に指示してくれないと……」

 そう言っている間にもチビ龍の姿は徐々に薄くなり、完全に見えなくなってしまった。

舞香はパソコン画面を閉じる。