階段を上がると普通に廊下があって、普通に教室に入れば、普通に普通が広がっている。

普通が一番だ。

そんな当たり前のことを守るために、俺はどんな努力も惜しまないし、譲る気も無い。

「で、告白は成功したのか」

 早速山本が絡んできた。

「告白ってなんだよ」

「付き合いだしたの?」

「だから、そんなんじゃないって。つーか、なんで俺から?」

「……。そりゃそうだろ。お前がモテるのがおかしい」

 そういうお前の偏見もどうかと思いますけど? 

「普通に動画編集の話ししてただけだよ。つーか、お前だって彼女いないだろ」

「だよなー」

 山本はボウズスタイルの頭をボリボリと掻いた。

「ま、現実はそんなもんだよな」

「そんなもんだよ」

 当たり前な普通を守って何が悪い。

それより困難で難しいことなんて他にあるか。

当然だ。

午前の授業は終わって、昼休みが過ぎた。

鳴るか鳴るかと待ち構えていたスマホは、結局鳴らないまま放課後を迎える。

入った部室には誰もいなくって、ホワイトボードの出欠表は、みんな撮影に出払っていて、俺は一人そこに取り残されていた。

もしかしたら彼女が編集作業のために来るかもしれない。

そんなことが頭をよぎる。

だけど、約束のない待ちぼうけは無意味な気がして、俺は自分のカメラを首にかけた。

スマホはいつだってポケットに入っている。

もし今日も彼女の方から編集作業を教えてほしいと思うなら、連絡さえくれればいつだって直行だ。

他に急ぐ用事もないし。

 カゴに放り込まれている『写真部』の腕章を腕に通した。

俺はこれからちゃんと真面目に写真部としての活動をするんだ。

無関係で余計なことになんて、関わらないでいい。

あれ? 

だけどもしかして、宝玉が見つからない限り、彼女は一生あのチビ龍に絡まれ続けるのかな。

寿命を考えると、ありえないことではない。

けど、メインは俺じゃないし、彼女の方だし……。

ま、いっか。

 そんなことをあれこれと考えながら、気がつけば1時間以上経過していた。

さすがにすることのなくなった俺は、あきらめて外に出る。

校庭には新鮮な空気が流れていた。

 写真部の活動範囲は、基本的には校内のみだ。

人物の撮影が余り好きではない俺は、誰もいない教室や廊下、雲なんかを相変わらず撮っている。

花壇に咲き始めたアジサイを見かけて、それにレンズを絞った。