「おはよう」

 バスを降りたところで、希先輩と一緒になった。

「おはようございます」

 そのショートボブの短い髪に、なぜか罪悪感を覚える。

隣に並んで歩くのが、悪いことをしているような気がして、意識して並ぶその距離幅を、ちょっと広げてみたりなんかして……。

「部室のパソコンなんだけどさー。データの保存がもうパンパンで、容量増やすっていってもこれ以上はさ……、もっと動作環境を……」

 希先輩にとっては単なる愚痴とか連絡事項であっても、俺にとってはその全てが特別な何かに聞こえる。

「俺が何とかしましょうか」

「いや。自分のデータを移して、消去してくれるだけでいい」

 坂道を登り切ったところで、舞香の後ろ姿を見つけた。

つい視線で追いかけてしまう。

希先輩も、そんな俺に気がついた。

「じゃ、頑張ってね」

 先輩は耳元でそうささやくと、ニヤリと笑った。

颯爽と歩き出す。

舞香はすれ違う希先輩に、ペコリと頭を下げた。

彼女は彼女で俺に近寄ると、そのまま無遠慮に話しかけてくる。

「で、何か良い案思いついた?」

 頼りにされるのは、うれしくなくないワケではない。

だけど学校の靴箱とか、こんな誰もがみんな通るようなところで、あえて話しかけないでほしい。

噂になったら、どうするんだ。

冷やかされるのは俺たちだぞ。

チビ龍との交流だって、そりゃレア度としては非常に高いことは理解している。

だけどさ。

「う~ん……ゴメン。すぐにはちょっと……」

「そっか。だよね。じゃ」

 案外あっさりとした態度に、拍子抜けする。

もしかして怒った? 

それとも呆れられたのかな。

出来ればこういう面倒くさいことには、あんまり関わりたくないんだけど……。

もうちょっと付き合わないと、無理なのかな。

抜けられないのかな? 

いや、そうだよ。

そもそも朝から俺が女の子に話しかけられるなんて、どうかしている。

絶対に普通じゃない。