「池の歴史については、誰かに聞いた方が早いんじゃないの?」

 つい漏らしてしまった言葉に、ハッとする。

「誰に聞けばいいのかな?」

「さぁ……」

 彼女は口をつぐみ、グッと黙ったままうつむいてしまった。

その横顔に、なぜかまた罪悪感を覚える。

「だとしても、この池は自然発生的な池の方じゃないのかな」

 そんなことを言ってみたけれども、なんの反応もなかった。

いずれにせよ、俺に出来るのはここまでだ。

「そうかもね、ありがとう」

 それが本音なのか、フェイクなのかは分からないけど、俺にもこれ以上踏み込めないし、踏み込む気もない。

自分のことは自分で片付けてくれ。

俺に頼られても何も出来ないし、そもそも頼られる理由もない。

もっと他にいるだろ。

彼女が話しかけたり、相談したりする相手は、他にもいたしな。

きっとその人に相談した方が、何もかも上手くいく。

彼女も別に平気そうだし、もういいだろ。

 下校時刻が近づいていた。

彼女は演劇部の方へ戻り、俺も部室へ戻る。

今日撮影したデータをパソコンへ送り、USBにバックアップをとったらお終いだ。

他のみんなも続々と戻って来ている。

それでたわいのない話しをしてから、一緒に帰るのがいつもの流れだ。

俺はそんな変わらない、いつもの風景に安心する。

間違いのない、正しい姿だ。

扉をノックする音が聞こえて、それは遠慮がちに開かれた。

「あの……。圭吾って、いる?」

 舞香が姿を現した瞬間、そこにいた写真部員、全員が振り返った。

彼女の赤らんだ頬のせいで、平和だった空間に突如として不穏な空気が流れる。

「あっ、どうぞ! こっちに座ってください!」

「圭吾、お前もう用事終わってる?」

「帰るなら、先帰っていいぞ」

「なんだよ、お前ばっかずるくない?」

 なぜ俺が山本に首を絞められる? 

だからそんなんじゃないっての!

「あー、スマホ動画の編集? それはまた明日にでも……」

「ううん。ちょっと他にも、聞きたいこともあって……」

 体が硬直する。

女の子の方からこんな風に誘われるのは、生まれて初めてだ。

「一緒に帰れるかな」

「い、いいけど別に……。あーじゃあ、片付けるね」

 とたんに心臓が騒ぎ始める。

待て。

一緒に帰っちゃダメだろ。

相手は得体の知れないバケモノだぞ。

さっき自分でも見たじゃないか。

怪しげな言動を。

そう簡単に騙されてちゃダメだ。

鞄を持つ手が震えている。

ニヤニヤしながらこっちを見てくる、部員たちの視線が痛い。

「じゃ、行こっか」

 部室の扉が閉まったとたん、中から歓声が上がった。

本当に本当にやめて欲しい。

困るじゃないか、俺が。