さっそく撮影を始めた先輩のカメラ位置は低くて、机を並べたりしてる演劇部員の腰辺りを狙っている。

背景はこの緑と青空かな。

人物があまり得意でない俺は、どうしようかと辺りを見回す。

「うわっ……」

 最悪だ。

うっかり荒木さんと目が合ってしまった。その顔がニンマリといたずらに笑う。

「なんだ。キミも写真撮りに来てくれたのか。喜んでモデルするよ」

 そんなことを言いながら、あからさまに時代遅れなセクシーポーズをとられても、誰がシャッターなんか切るかっつーの。

「いえ、結構です」

「聞いたぞ」

 そのうっとうしい腕が首に回った。

「なんだよ、案外ちゃんとしっかりしてんじゃん?」

「何がですか」

「え? アレ」

 親指でクイと差した方向には、ちゃんとしっかり舞香がいる。

「あぁ、彼女にはスマホでの動画編集方法を教えていただけですから。部長なのに報告受けてないんですか? 参考までに俺のと同じ編集アプリを入れてもらいましたけど、別にそれじゃなくたっていいし、使っていくなかでもっといいものがあればそちらの方で好きに変更してもらっても……」

「うふふ」

 荒木さんは楽しそうに笑った。手の平で俺の頬を挟むと、ムニッと押しつける。

「お前も案外かわいいな」

「マジでやめてください」

 その腕を乱暴に振り払い、そのまま立ち去り……たいけど、それも失礼だと思うから、挟んでいる手をそっと外して下ろす。

荒木さんは笑いながら後ろを振り返った。

「おーい、舞香。スマホでも動画編集出来るようになったって?」

「あ、はい。教えてもらっただけで、まだやってはないんですけど……」

 部長の呼びかけなんだから、彼女がすぐに駆け寄ってくるのも、当たり前の話しなんだ。

「じゃあ試しに、今ちょっと撮って教えてもらえよ」

「えっ!」

「え? あ、はい」

 彼女は素直に、ポケットからスマホを取り出す。

「じゃ、どうしよっか。どうすればいい?」

 全く、余計なことしかしやがらねぇ。

彼女は素直にスマホを操作している。

俺はこんなことをするために、カメラぶら下げて来たんじゃないし!