体育館のステージを練習場としている演劇部が、そこからはみ出して外に出てきていた。
黒髪の、誰よりも一段と背の高いあの人は、すぐに分かる。
「荒木さん、いますよ」
「え? あ、本当だ」
さっきまでこっちを向いていた希先輩のレンズは、もうその人に向けられた。
「いい写真、撮れました?」
先輩は、ショートボブの短い髪を耳にかけ直す。
「今ね、同じクラスなんだ。1年の時に一緒だったの。2年は違ったんだけど。今はまた同じクラスなの」
「そうだったんですね……」
その横顔が静かに微笑んだ。
「実は私、一度あの人にモデルを頼んで、断られたことがあるんだ」
「そうなんですか」
なんだかそれは、知っていたような気がする。
校庭の隅で泣いている先輩を、一度だけ見かけたことがある。
「だから、今回うちに頼みに来たのかなって。私にモデルするからって言えば、演劇部に協力してくれるかなって、思って来たのかなって……」
その荒木さんは、ここからは遠い体育館外のエリアで、演技指導をしている。
じゃあ、断ればよかったじゃないか。
「じゃあ、モデル頼まないと損じゃないですか」
「はは。それはなんか、私のプライドが許さないからダメ」
彼女はニッと微笑んで、俺を見上げた。
「で、舞香ちゃんとは?」
「は? 何言ってるんですか……」
「聞いたよー。昼休み、二人でずっとしゃべってたって」
「……。は? そ、それは!」
「なになに? 照れてんの? かわいー。なんだかんだで、ちゃんと頑張ってるんだ」
きっとその誤解は簡単に解けないだろうし、俺の気持ちも永遠に伝わることはない。
「ねぇ、一緒に行こうよ」
先輩の手が、俺の制服の袖を引いた。
「いいですけど、俺は写真撮りに行くだけですからね!」
「はいはい」
うれしそうに駆け出す先輩は、本当は自分がそうしたいだけなんだって、知ってる。
だけどそんな顔でそんなことを言われたら、もう立ち上がるしかないじゃないか。
遠くに見えていた、体育館横へ向かう。
コンクリートで固めた地面に、使われていない机と椅子をいくつか並べていた。
これを大道具の代わりに見立てて、練習しているらしい。
「こんにちはー。ちょっとお邪魔しますね」
そう言った先輩の後ろで、俺はペコリと頭を下げる。
すぐに快い返事が返ってくるのは、協力関係が成立しているから。
他の運動部とかだと嫌がられることも多いのに、これは写真部にとって、本当にありがたい話しなんだ。
黒髪の、誰よりも一段と背の高いあの人は、すぐに分かる。
「荒木さん、いますよ」
「え? あ、本当だ」
さっきまでこっちを向いていた希先輩のレンズは、もうその人に向けられた。
「いい写真、撮れました?」
先輩は、ショートボブの短い髪を耳にかけ直す。
「今ね、同じクラスなんだ。1年の時に一緒だったの。2年は違ったんだけど。今はまた同じクラスなの」
「そうだったんですね……」
その横顔が静かに微笑んだ。
「実は私、一度あの人にモデルを頼んで、断られたことがあるんだ」
「そうなんですか」
なんだかそれは、知っていたような気がする。
校庭の隅で泣いている先輩を、一度だけ見かけたことがある。
「だから、今回うちに頼みに来たのかなって。私にモデルするからって言えば、演劇部に協力してくれるかなって、思って来たのかなって……」
その荒木さんは、ここからは遠い体育館外のエリアで、演技指導をしている。
じゃあ、断ればよかったじゃないか。
「じゃあ、モデル頼まないと損じゃないですか」
「はは。それはなんか、私のプライドが許さないからダメ」
彼女はニッと微笑んで、俺を見上げた。
「で、舞香ちゃんとは?」
「は? 何言ってるんですか……」
「聞いたよー。昼休み、二人でずっとしゃべってたって」
「……。は? そ、それは!」
「なになに? 照れてんの? かわいー。なんだかんだで、ちゃんと頑張ってるんだ」
きっとその誤解は簡単に解けないだろうし、俺の気持ちも永遠に伝わることはない。
「ねぇ、一緒に行こうよ」
先輩の手が、俺の制服の袖を引いた。
「いいですけど、俺は写真撮りに行くだけですからね!」
「はいはい」
うれしそうに駆け出す先輩は、本当は自分がそうしたいだけなんだって、知ってる。
だけどそんな顔でそんなことを言われたら、もう立ち上がるしかないじゃないか。
遠くに見えていた、体育館横へ向かう。
コンクリートで固めた地面に、使われていない机と椅子をいくつか並べていた。
これを大道具の代わりに見立てて、練習しているらしい。
「こんにちはー。ちょっとお邪魔しますね」
そう言った先輩の後ろで、俺はペコリと頭を下げる。
すぐに快い返事が返ってくるのは、協力関係が成立しているから。
他の運動部とかだと嫌がられることも多いのに、これは写真部にとって、本当にありがたい話しなんだ。