午後からの授業が始まったものの、その内容なんて一切頭に入ってこない。

体は寒くもないのに、ガタガタ震えている。

やっぱ何かヘンだしあの子。

やっぱ何かヘンだしあの子!

 あの時彼女が反応したのは、第一校舎2階資料室前の廊下を撮影した画像だ。

第一校舎は1階に保健室と図書室があり、2階は職員室と校長室、資料室と会議室がある。

3階は第二校舎と渡り廊下で繋がっていて、そこから上は音楽室や家庭科室、情報室などが入っている。

一般教室はない。

 資料室前に飾られているのは、主に運動部の獲得してきた歴代のトロフィーや記念の盾なんかだ。

ホコリをかぶったようなくすんだガラスケースが、いつから置かれているのか分からないほど、途方もない時の経過を感じさせる。

「……。部活やってた、卒業生とかなのかな」

 その関係で亡くなったりとかして、恨みを持った幽霊? 

それで在校生に取り憑いたとか? 

他にも色々考えてみたけど、考えても分からないものは分からない。

退屈な午後の授業は続き、俺は日の落ちたコンビニ前で見た、彼女のはにかんだような笑顔を思い出す。

あの笑顔は本物だったのかな。

山頂の学校から見下ろす窓には、緑の森が広がっていた。

ま、俺には所詮関係ないことだけど。

関わりたくもないし……。

 そうやって思い悩みながら、ようやく迎えた放課後だ。

部室に寄ろうか、そのまま帰るかの二択で、俺は帰ることにした。

このままうっかり顔を合わせ、資料室に案内しろなんて言われた時には、断り切れる自信がない。

山本には先に帰ることを伝え、慎重に帰宅計画を検討する。

彼女は今日は、演劇部に顔を出すのだろうか。

それとも写真部? 

鉢合わせしないようにしたいが、それをスマホで確認することもままならない。

彼女にバレる可能性があるからだ。

下校時の混雑が一段落したところで、ゆっくりと席を立つ。

考えても無駄だ。

何とかするしかない。

 人気の引いた廊下を、それとなく見渡す。

どうしてこんなにも自分が緊張しなくてはならないのか。

いつもの階段を下りようとして、ふと足を止めた。

ここだと彼女も使用する可能性がある。

写真部へ行くにしても、演劇部の活動場所である体育館へ行くにしても、彼女の教室からだと使用する階段は、最短距離にあるこちら側だ。

迷わず引き返す。

廊下に人のいないのは確認していた。

4階の教室から3階へ下りる。

踊り場をターンしたところで、ハッと何者かの気配を感じた。

恐る恐る顔を上げる。

彼女だ。

その先の3階廊下を真っ直ぐに歩いてゆく。

両腕を付属品のようにダラリとぶら下げ、向かう先は渡り廊下だ。

その先の校舎に、通常教室なんて存在しない。

目的地は間違いなく、資料室だ。