山頂の学校から麓まで、アスファルトで固められた歩道があるとはいえ、急な坂道が延々と続く。

周囲には原生林がそのまま残っているものの、山さえ下りてしまえばごくごく普通の、どこにでもあるような平凡な街だ。

山麓のコンビニ駐車場兼バス停でとりあえず立ち話をするのが、うちの生徒たちのお約束になっている。

「喉渇いた~」

「なんか買ってこよう」

「アイス食べたーい」

 女子軍団のコンビニに付き合って、俺は仕方なくお茶を買う。

店を出るとすぐに彼女たちはアイスの袋を開けた。

日の傾いたコンビニ駐車場の壁に沿って、なんとなく5人で一列に並んでいる。

俺の隣に舞香が来た。

彼女が口にするのはパイナップルのアイスらしい。

その黄色い塊は、白い歯に噛まれ口に含まれると、ころころとその中で転がされている。

「……。アイスとか、普通に食べるんだ……」

「え?」

 もぐもぐと口を動かす彼女を、じっと見下ろす。

なにこの子。

もしかして日常を楽しむ系の幽霊だったりしたのかな。

だとしたら取り憑いてるのは、平和な癒やし系バケモノ? 

だとしても、普通じゃないことは確かなんだし……。

彼女の口元は再びアイスに食らいつく。

「パイナップルとか食べたことあるの? そういうの、知ってたんだ。アイスって冷たくない? それは大丈夫なんだね」

「う、うん? ……。まぁ、普通に大丈夫だけど……」

「甘い? 美味しい? 今まででアイス食べるのって、何回目?」

不意に彼女は、俺から顔を背けた。

うずくまるようにして顔を隠す。

「え? どうかした? なになに、大丈夫?」

 顔が真っ赤だ。

それを隠そうとしているから余計にタチが悪い。

え? 

待って待って。

もしかしてここで変身する?

「ちょ……。ここじゃ……」

 どうしよう。

ヤバい。

逃げればいい? 

いやむしろ逃げたいんだけど、どこへ? 

武器は? 

いや戦わんだろ。

スマホで警察呼ぶ? 

慌てて制服のポケットを探る。

こういうときに限ってなぜか、すぐにスマホは出てこない。

「待って。いまここで何かあっても……」

「バッカじゃないの! 頭大丈夫かよ。しっかりしろ圭吾!」

 みゆきがそう叫んで、俺の制服の袖を思いっきり引っぱった。

希先輩は冷ややかな視線を投げかける。

「え、もしかして初恋? 初恋な感じなわけ? うっわ、ないわ~」

「え、さっきまで部室にいたとき、もしかして私邪魔だった? ねぇ邪魔だったのかな? 二人っきりになりたかった?」

 みゆきがにらんでくる。

「は? ち、違うって! だから……」

「そうは言っても、あんたと二人っきりにはさせられないけどね!」

 舞香の顔は真っ赤だ。