「あ、希先輩だ」

 腕に写真部の腕章をつけていた。

特に演劇部だけを見に来たわけではないような雰囲気だ。

首にかけたカメラは、胸の前でぶら下がったまま揺れている。

その視線の先には、やっぱりあの人がいるんだろうか……。

「あ、そういや圭吾。お前タイムラインに載せる画像選んだ?」

「あ……。忘れてた……」

「部活ラインで回ってきてただろ。みゆきちゃん、怒ってたよ」

 放課後になり、部室に入ったとたん、そのみゆきに怒鳴られた。

「ちょっと、圭吾! いい加減にしてくんない? 本気で未提出なの、あんただけなんだけど」

「ハイ。スミマセン……」

 彼女は一台しかないパソコンの前に座っていた。

俺はスマホを操作する。

選んでおいた画像を添付して、部室のパソコンに送った。

みゆきは動画編集ソフトを起ち上げている。

容量はとるけど、スマホでだって出来ないこともないのにな。

そりゃパソコンの方がやりやすいけどさ……。

やっぱ本当に来るのかな。

部室のドアが開いた。

「あ、演劇部の内村です。よろしくお願いします」

 舞香だ。

その姿を見たとたん、俺の手からスマホが滑り落ちる。

それは床に跳ね返って、ガツンと嫌な音をたてた。

「あ、大丈夫? 画面割れてない?」

 スマホに彼女の手が伸びる。

「触るな! って、あ……ご、ゴメン……。な、なんでもない。ありがとう」

 思わず出た声に、自分で自分もびっくりしてる。

なに言ってんだ俺。

めっちゃ恥ずかしい……。

「あ、いや……。私もゴメン。人のスマホに、勝手に触るもんじゃないよね」

 落としたスマホを自分で拾い上げた。

画面は割れていない。

俺はやっぱり、彼女の顔をまともに見られない。

「ちょっと圭吾。今のは酷くない? 拾ってくれようとしただけでしょ」

「はい。すみません」

「早くタイムラインに載せる画像送って」

「送ったって」

 みゆきに急かされ、マウスを動かした。

メールの送受信をチェックする。

新しい受信を知らせるアイコンが浮かび上がった。

そんな簡単な作業をしているのに、舞香からの熱い視線を手元に感じている。

「パソコン関係、強いの?」

「別にそういうわけじゃ……」

 これくらい、本当にどうってことない。

彼女は今度は、みゆきの操作するパソコン画面をのぞき込んだ。

「こういうの、出来るようになりたいんだよねー」

「うん。いいと思うよ。色々出来て楽しいし便利だし」

 この二人は初対面だったらしい。

みゆきが操作の説明を始めた。

彼女はそれをメモをとりながら、一生懸命に聞いている。

その後ろで俺は、二人の様子を落ち着かない気分のまま、ちょろちょろと眺めていた。

こんな狭い部室で、いくらなんでも二人っきりはないだろ。

俺がいなくなったら、コレ絶対みゆきがバケモノに襲われて、死亡確定なヤツだし。