「どっかこの辺りに……」

 太古の森の暗がりに、目をこらす。

若い木の立ち並ぶ何でもない傾斜に、その祠はポツリと立っていた。

「あった……」

 何度も見ていた祠だ。

学校ホームページにあった画像とも、日に焼けて変色したパネルとも同じ。

高床式の観音開きの扉に、三角屋根からは二本の角が生えている。

扉には丸い窓のような木枠があり、そこにはかんぬきがかけられていた。

「……すごい。こんなところに……。本当にあった」

「あのヒトが言ってたんだ。多分この近くにあるって」

「そんなことまで話したの?」

「まぁ、そんな感じのこと」

 高さ1.5メートル、横幅だって70㎝あるかないかくらいの大きさだ。

そっと横木を引き抜く。

「最初から、誰も間違ってなかったんだよ。ハクがここに降りてきたのも、荒木さんがこの辺りで、ずっと転生を繰り返してるって言ってたのも……」

「荒木さん? なんで?」

 人の気配がして、振り返った。

「俺がどうかしたのか」

 腕には、小さな女の子になったハクを抱いている。

彼女はそこからぴょんと飛び降りると、真っ直ぐに祠へ駆け寄った。

「あ、ちょっと待っ……」

 ハクの小さな手が、祠の扉に伸びた。

触れたかと思った瞬間、バチンと雷光が走る。

その衝撃に、ハクは痛む手をおさえうずくまった。

ギッと俺たちをにらみつける。

「何かに守られているのか」

 そう言った荒木さんの視線は、俺に向けられていた。

「さっきは普通に、横木を外せたよ?」

 そう言った舞香は、ハクに寄り添う。

ハクは俺を見上げたまま、黙ってうなずいた。

それは、俺に開けろということか? 

祠を振り返ると、その扉に手をかける。

「やっぱりこれが、正解だってことだ」

 まだ新しいようなそれは、音もなくスッと開いた。

中には分厚い座布団に鎮座した、ガラスのような丸い玉が森の闇を透かしている。

そっと手を伸ばす。

触れようとして、その手を止める。

だけど俺は、それを取り出した。

 ひんやりと冷たくて、表面は驚くほどすべすべしていた。

軽いような重いようなそれを、皆の前に差し出す。

「見つけたよ、宝玉」

 周囲を太古からの木々に覆われ、市街地からここまで届く光はわずかだ。

その闇と光りに半分溶けてしまったような宝玉は、静かに輪郭だけを光らせている。