「ねぇ、……そんなところ、怖いからヤだ」
「そんなこと言ったって、もう残ってる可能性は、ここしかないでしょ」
「暗くなるよ。明日にしよう」
俺は彼女を振り返った。
「だ、だって、この森、ヘンな噂が一杯あるでしょ? 変な人がうろついてるとか、暴行事件があったとか……」
まぁ確かに、そんな噂がないワケではない。
それは知っているけど、本当にあったかどうかだなんて、誰も確かめたことはなかっただろ。
「だけどハクは、帰らなきゃならないんだろ? 天に」
彼女は首を横に振った。
「え……、だって……。自分がどんだけヤバいことしてるのか、本当に分かってる?」
「私、言ったよね、そんなことしたくないって!」
「時間がないって言ってただろ。見つかる前に帰らなきゃって」
「だから、それは一瞬の出来事だって……」
「あのヒトは、迷惑だって言ってんだよ」
日が沈む。
辺りがすっかり暗くなってしまう前に森に入らないと、本当に何にも見えなくなってしまう。
「なにがあったのかは知らないけど、お前は黙ってここへ来たんだろ? あのヒトは、お前までこれ以上巻き込みたくないからって、お前を頼むって、俺に言ってきたんだ」
「……。本当に会ったんだ……」
「会ったよ。あの日、教室で……」
坂道をゆっくりと下ってゆく。
コンクリートの斜面が、肩のあたりまで下がった。
ここからなら上れる。
俺はそこに手をかけた。
「待って!」
「私、行きたくない! ハクと離れたくないって言ったよね!」
「え?」
俺は彼女を振り返った。
「ハクが天に帰っちゃったら、私との約束はどうなるの?」
「……。もしかして、まいか……ちゃん?」
「そうだよ。本気でハクだと思ってた?」
「だって、ハクが……」
「うん、そうだよ。乗り移ってたよ。私はハクで、ハクは私だったよ。だけどね、そんなのは一時のことだけ。常に入れ替わってたし、ハクはハクで忙しくしてたの。だから圭吾が見てたのは、ハクばっかりじゃないし、私だけでもないの!」
そんなこと言われたって、俺に分かるワケが……。
「自分の……わがままだって、分かってる。ハクにとって、何が一番大切なのか。ハクのことを本当に一番に考えるなら、どうしたらいいのかなんて、言われなくても分かってる。ここにはずっと、一緒にいられないことも……」
舞香の肩までの髪が、小刻みに揺れている。
「い、いじわる……しちゃった。ハクのこと、手伝いたくなかった。話しもちゃんと聞かなかったし、わがままばっかり言って……」
「……。俺も、似たようなもんだから……」
そうだよ。
俺だって、何もかも面倒くさいと思ってたよ。
避けてたし逃げてたよ。
本当はどうすればいいのかなんて、ずっと前から分かっていたのに……。
「そんなこと言ったって、もう残ってる可能性は、ここしかないでしょ」
「暗くなるよ。明日にしよう」
俺は彼女を振り返った。
「だ、だって、この森、ヘンな噂が一杯あるでしょ? 変な人がうろついてるとか、暴行事件があったとか……」
まぁ確かに、そんな噂がないワケではない。
それは知っているけど、本当にあったかどうかだなんて、誰も確かめたことはなかっただろ。
「だけどハクは、帰らなきゃならないんだろ? 天に」
彼女は首を横に振った。
「え……、だって……。自分がどんだけヤバいことしてるのか、本当に分かってる?」
「私、言ったよね、そんなことしたくないって!」
「時間がないって言ってただろ。見つかる前に帰らなきゃって」
「だから、それは一瞬の出来事だって……」
「あのヒトは、迷惑だって言ってんだよ」
日が沈む。
辺りがすっかり暗くなってしまう前に森に入らないと、本当に何にも見えなくなってしまう。
「なにがあったのかは知らないけど、お前は黙ってここへ来たんだろ? あのヒトは、お前までこれ以上巻き込みたくないからって、お前を頼むって、俺に言ってきたんだ」
「……。本当に会ったんだ……」
「会ったよ。あの日、教室で……」
坂道をゆっくりと下ってゆく。
コンクリートの斜面が、肩のあたりまで下がった。
ここからなら上れる。
俺はそこに手をかけた。
「待って!」
「私、行きたくない! ハクと離れたくないって言ったよね!」
「え?」
俺は彼女を振り返った。
「ハクが天に帰っちゃったら、私との約束はどうなるの?」
「……。もしかして、まいか……ちゃん?」
「そうだよ。本気でハクだと思ってた?」
「だって、ハクが……」
「うん、そうだよ。乗り移ってたよ。私はハクで、ハクは私だったよ。だけどね、そんなのは一時のことだけ。常に入れ替わってたし、ハクはハクで忙しくしてたの。だから圭吾が見てたのは、ハクばっかりじゃないし、私だけでもないの!」
そんなこと言われたって、俺に分かるワケが……。
「自分の……わがままだって、分かってる。ハクにとって、何が一番大切なのか。ハクのことを本当に一番に考えるなら、どうしたらいいのかなんて、言われなくても分かってる。ここにはずっと、一緒にいられないことも……」
舞香の肩までの髪が、小刻みに揺れている。
「い、いじわる……しちゃった。ハクのこと、手伝いたくなかった。話しもちゃんと聞かなかったし、わがままばっかり言って……」
「……。俺も、似たようなもんだから……」
そうだよ。
俺だって、何もかも面倒くさいと思ってたよ。
避けてたし逃げてたよ。
本当はどうすればいいのかなんて、ずっと前から分かっていたのに……。