「もしもし、母さん?」

どこに電話を?と不思議そうに西園寺を見つめていた紡木は、その言葉を聞くと目を丸くして驚いた。

西園寺はスピーカーに切り替えるとそのまま続けた。


「この間、俺が風邪ひいた日来たでしょ?」

『ああ、この間行ったわね…それがどうしたの?私なにか忘れ物でもしてたかしら?』


スピーカーから聞こえてくる声は、まさにあの日先生の名を呼ぶピンクのミュールの女性と同じ声だった。

先生みたいに柔らかくて落ち着いている声…。


「ううん、何でもない。この間はありがとう。父さんにもよろしくね。」


そう言うと西園寺は電話を切って、紡木を見下ろした。