程なくして車が進むと西園寺は、ふう、と息を吐いて座席にもたれた。
少し自分との距離が近くなったような気がして、紡木はピクリと肩を震わした。
本当は紡木さんにお金を渡して帰ってもらおうかと思ったけど運転手とはいえ男性と2人きりにするのは…紡木さんにとっては苦痛かもしれないし、この目で家まで帰るところを見ないと安心できない。
それに、紡木さんともう少し一緒にいたい。聞きたいことだってある。
そう思って西園寺はゆっくり口を開いた。
「今日、お母様は?」
さっきまでは怒っていたはずなのに今は緊張で驚くほど弱々しい声に西園寺は自分で自分が情けなくなった。
「…夜勤です。」
そんな彼の声音に気づいていないのか、紡木は俯いたままそう答えた。
「…じゃあ、まだもう少し、いい?話したいことがあるんだ。」
「え…。」
西園寺の提案に驚いて彼の方を見ると、彼は驚くほど真剣な眼差しで紡木を見つめていた。
そんな視線に断る理由も見つからず、紡木は無言で頷いた。