「何もなかった?」
「え?」
「…いや、こんな夜にこんな若い子が飲み屋街に来るっていうことは、犯罪に巻き込まれる可能性だってなきにしもあらずなんだから。」
「…ごめんなさい。」
西園寺は自分を心配してくれて怒ってくれているんだと気がついた紡木は、もう一度心の底から謝った。
西園寺も「もう、いいって。気をつけてね。」と言ったきり何も言わなかった。
彼女の危機感のなさに怒っているといえばそうなのだが、それよりも自分のことは無視して避けるくせに千秋の誘いにはこんな時間でも来る彼女に苛立っている自分が情けなくて、恥ずかしくて、イライラして、西園寺は再び大きくため息をついた。