「それより、お見合いの件だけど…。」


母は手に持っていたバッグから大きな封筒を出しながらそう言うと、西園寺は深くため息をついた。


「しなきゃダメなの?」

「しなきゃダメなの。英統だって婚約したっていうのに、お兄ちゃんの貴方が独り身でいるわけにいかないでしょ?」

「そんなの、俺には関係ないだろ。」

思わず出た大声に、母は慣れているのか怯むこともなく、「いい歳した男が駄々こねないでよ。はい。」と言って半ば強制的に封筒を押し付けた。


「ちょ、ちょっと、」

「じゃあね。体調には気をつけるのよ。」

西園寺は胸に押し付けられた封筒を押し戻そうとしたが、母はひらりとそれをかわし、手を振りながら自動ドアの向こうへと消えていった。


西園寺は再び長く深いため息をつくと、ドッと疲れが出た身体を引きずって自分の部屋へと戻っていった。


文化祭までの激務が祟って体調を崩した西園寺は授業もないことだし、と一日休みを取ったが食事を作る気力もなく、かといって買いに行く体力もなく。


洗濯や掃除も激務と重なって溜め込んでいた西園寺は恥を偲んで母に看病をお願いしたのだが、その見返りとしてこんなものを押し付けられるとは。


西園寺は押しつけられた封筒をテーブルの上に適当に乗せると寝室へと戻っていった。