「ど、どうかしました?」
「いや、なんでもない…。
わざわざ来てくれてありがとう。でも、今日は家に上げるわけには行かないから、帰ってもらっていいかな。」
西園寺のいつもより少し冷たい口調が紡木の胸に突き刺さって、思わず俯いた。
「圭統?何してるの?」
紡木が何も言えずに俯いていると、突然西園寺の部屋のドアが開いて彼を呼ぶ女性の声が聞こえた。
その声に紡木は思わず顔を上げて部屋の方を見た。
自動ドアと近くに置いてある観葉植物の影になって顔はよく見えなかったが、すらりと細くて白い足にピンクのミュールが隙間から見えた。
今日は家に上げるわけにはいかない…か。
女の人がいるからってこと?
紡木は今にもこぼれ落ちそうな涙を唇をかんで堪えながら、「あ…すみません。」と西園寺に告げて、タイミングよく来たエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗り込むなり堪えていた涙が一気に溢れ出てきた。