「何で泣いてるんだ?なにかあったのか?」


そんな葵の様子に気づいた蓮は、ガシッと強く葵の肩を掴んで彼女の顔を覗き込んだ。


「なんでも、ない、」


そう言って首を横に振る葵の声はあまりにも弱々しく、蓮は思わず彼女を抱きしめた。


「…俺に言えないことか?」


蓮が彼女の耳元で呟くと、葵は少し迷ったあとに口を開いた。


「…ウチは蓮の夢を叶える為なら何だってするって決めてたのに…

蓮がお兄さんからの遺書を見つけて、お兄さんが望んだ通りに会社を継ぐって決めてからずっと、蓮が会社を継ぐためなら何だってしようって、…だからウチから別れようって言ったのに…

蓮が好きで、大好きで、離れたくなくて、辛いよ。」


ずっと意地を張って言えなかった言葉が涙と共に溢れ出た。


何で今更…


もっともっと早く素直になっていればよかった。


葵は後悔の念を抱えながら、蓮にしがみつくように抱きしめた。