『…俺、親父の会社を継ごうと思う。それが、兄貴の願いだから。』


そう言って一枚の手紙を大事そうに抱きしめる蓮に、私もあの日蓮が夢を叶える為なら何だってするって決めたのに。


『俺が全部変える。腐った父さんも、ヒステリックな母さんも、俺が会社を乗っ取って全部変えてやる…。』


そう空を仰いで拳を高く上げる蓮に、私も…。


やっぱり、そばにいたいよ。

嫌だよ…。


ぽたりと葵の瞳から落ちた涙が蓮の頬に落ちると、その刺激でか蓮がゆっくりと目を開けた。


「ん…え…あ、あおい?」


細く目を開けた蓮がそう呟くように言うと、葵はハッとしてゴシゴシと涙を拭った。


「どうした、なんか用か…?」


勢いよくベンチから起き上がってそう問いかける蓮に、葵はそっぽ向いて「何でもない。」と冷たく言い放った。


このまま屋上から出ていけばいいのに、なぜか立ち上がることも涙を止めることもできなくて、葵はただ遠くを見つめた。