走ってきたせいで、準備室の前に着く頃には息絶え絶えだった紡木は、深呼吸を繰り返して落ち着かせた。


勢いに任せてきちゃったけど
先生、まだいるのかな。


そう言い聞かせて勇気を奮い立たせると、紡木はドアをノックした。


「西園寺先生…。」


紡木は扉に向かって声を掛けたが、返事はなかった。


やっぱりもういないのかな。


今すぐに会いたかったのに。



そう思ってきた道を戻ろうと踵を返そうとすると「紡木さん?」と、声が聞こえた。



自分の名前を呼んでいるのを聞くだけで、涙が溢れ出そうな、そんな不思議な気持ちになった。


紡木が涙をグッと堪えて声のに顔を向けると、そこには化学室からひょっこり顔を出している西園寺がいた。



「紡木さんから会いに来てくれるなんて嬉しいなあ。僕に用?」



そう言って嬉しそうに頬を緩ませる西園寺のいつもの姿に、紡木はちょっと安心した。


「とりあえず中に入っておいで。」


西園寺はドアを開けて中に入るように促した。