「0823番…?今、0823番と仰いましたか?」


テーブルの横で、今まで静かに俺の話を聞いていた笑美が恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「へ?…うん、言った」


今度は、俺を含む全員の目線が笑美に向けられる。


湊ですら、驚いたような顔をしていた。



それもそのはず、家政婦である彼女は今まで家族会議や俺達の会話に混ざった事がほとんどなかったから。


笑美はいつも家事を引き受けてくれて物静かで、俺がそんな彼女と会話するのは挨拶程度だ。


それなのに笑美が珍しく会話に混ざったという事は、何か言いたい事でもあるのだろうか。



「どうした笑美、何か知っている事があるの?」


湊の優しい声が笑美の身体を包み、エプロンの裾を握って俯いていた彼女はゆっくりと顔を上げた。


「まだ確信は持てないのですが…。紫苑さんが仰った“大叔母さん”と“0823番”、そして“黒木温泉のバスのアナウンス”から推測するに、紫苑さんは…怪盗パピヨンの元に捕らわれているのではないか、と……」



「え、」


笑美の言葉に、誰もが驚愕した。


「怪盗パピヨンってあれですよね、日本三大怪盗の1つで、OASISに続いて治安の悪い女性だらけのグループ…」


確認するかのように、航海が一言一言に力を入れて口を開く。