そして、唐突にクラシックの曲が中断され。


『お電話代わりました、大也です』


低くて、心地の良い声が流れ込んできた。


「………」


何か話さないと、と思うけれど、声が出ない。


『もしもし、大也ですが。…聞こえていますか?』


相手の声が、困惑したような怪訝なものに変わったのが分かる。


「………」


全然聞いた事がない声のはずなのに、今電話の向こう側に居る人は知らない人のはずなのに。


(……この声、知ってる、)


またありもしないデジャブなのだろうか、私はこの声に聞き覚えがある気がして。


「………あの、大也、」


自分でも驚く程小さな声で、彼の名を呼んだ。


『……え、』


私の声が届かなかったのか、大也と名乗る人が息を飲んだのが分かった。


『…大也、…だい、や』


彼の名前を呼ぶ度、自分の中のパズルのピースがはまっていく感覚に襲われる。


彼を知らないのに知っているようなこの感覚を、何と表せばいいのか私には分からない。


スマホを握る手には、いつの間にか力が入っていて。


(何で、?)


何故か、私の目からは涙が零れていた。



『……紫苑、ちゃん?』


そして永遠とも思える時間が経った後、動揺しているような彼の声が鼓膜を震わせた。