知らない男の人の声が、受話器から流れ込んできた。


「あ、もしもし…」


『はい』


取り敢えずもしもし、とだけ言ってみたけれど、顔も分からない誰かと話すのが初めてで何を話そうとしたか忘れてしまった。


「あの、えーっと……」


(何て言えばいい?……あ、No.1がどうこうって…)


記憶の糸を手繰り寄せ、その単語だけ掴み取った私は口を開いた。


「えーっと、…あの、1番…じゃなくって、No.1の……」


『ああ、順位がNo.1のホストの事でしょうか?』


「あ、それだと思います」


ホスト、というのが何だか分からないけれど、話が通じただけでもまずはほっとする。


『源氏名が“大也”のホストですと、今丁度接客中ですが……。大也と電話を代わりましょうか?』


「あ、お願いします」


『少々お待ちください』


何だかトントン拍子に話が進んで、“大也”という人に電話を代わってもらう事になってしまった。


電話口からは、聞いた事のないゆったりとしたクラシックが流れ始めた。



初めて使う電話に心が落ち着かない中、


(大也……ダイヤモンドみたいな名前だな。本名なのかな?)


私はぼんやりとそんな事を考えていた。