胸に手を当てて呼吸をする事に精一杯でうんともすんとも言えない私の代わりに、


「お止め下さいご主人様!飴をこれ以上増やすのは、0114番様の身が……!」


0823番が、今までに聞いた事のない程切羽詰まった大声を上げた。


瞬間、


「あなたは黙ってなさい、使えない下僕の分際で」


大叔母さんの口から流れ出たのは、今までの高い声とは正反対の声。


「これは命令よ、0823番。この子の飴は3つに増えるの。分かったわね」


その声が“命令”という言葉を紡いだ瞬間、彼女はぎゅっと口を真一文字に引き結んで俯いた。


いつもは間髪入れずに、


「かしこまりました、仰せのままに」


と言うはずなのに。



呼吸を整えている私は未だに何も言えず、大叔母さんだけが、


「0823番、返事は!?」


と、声を張り上げた。



それでも黙りこくっている彼女は、必死に大叔母さんからの不可抗力に抗っているようにも見えた。


それでも何かを悟ったのか、


「……かしこまりました、仰せのままに」


と、最終的にゆっくりと口を開いた彼女の身体は、まるで雨に打たれた後のように震えていた。



「じゃあ行くわよ、0823番。…夕飯はお粥にするわね、イイヨちゃん。何かあったら鈴を鳴らすのよ」