「あ……」



廊下の角を曲がったところで、少し気まずそうな顔をした美湖ちゃん。



「ごめんくるみ……ずっと見てた……って、えぇ!?つ、つ、つばっ……え!?」



椿を連呼する美湖ちゃん。



おそらく今気づいたのだろう。



カヤも苦笑いを浮かべている。

 

「えっ、ちょ……え!?カヤくんって……椿、のことだったの……!?」



その場で跳ねながら騒ぎ立てる美湖ちゃん。



あぁ、まずい。



こんなに騒いでたら、みんなにバレちゃう。



美湖ちゃん、と呼ぼうとした時、カヤが動いた。



人差し指を口に当てて、静かにするよううながしている。



「このことは内緒ね、美湖さん」



今まで私が見たことないくらいの、カヤのよそ行きの笑顔。



切長の目尻が下がって、一気に優しそうな雰囲気に変わる。



カヤ、こんな表情するんだ……。



そう思うと、カヤが私にしか見せないあの意地悪な微笑みも、優しい眼差しも。



全部、全部。



私しか知らないことに少しの優越感が湧き上がる。