何となく人目を避けるように彼が入ってきた窓を閉じ、とりあえず生まれた沈黙にお互いが安堵のため息をもらす。

「すまない。…あまりに驚いてつい声が出た。」
「いえ、ここは壁も薄いので以後気を付けていただければ。」

素直に謝罪してくれたことに気が大きくなったセドニーはついでにここで会話することの注意点も促した。
ここは庶民の住まいなのだと釘をさしておく。意外にも高圧的な男は噛みしめるように深く頷いたので少し感動もした。

さっきまでとは随分態度が違うなと思ったが、今はとりあえず会話の続きが先だ。

「二度目と言ったか…貴女は占い魔女ではないのか?」
「…先ほども申しましたが、正しくは魔女見習いです。」
「…あ、そうか…いやでも信じらない。」

そう呟いたかと思うと、口元に手を当てて少し考え込んだ。そして視線を水晶玉に移すとこう願い出たのだ。

「占ってもらいたい。」
「何をですか?」
「俺のことを。」

真っすぐセドニーを射るような強いまなざしを向けてくるが、セドニーはその思いに応えることが出来ず視線を手元に逸らして首を小さく横に振った。

「…それは出来ません。」
「何故?」
「人を占う事は師よりまだ許可がおりておりません。まだ始めたばかりで…。」
「なら貴女の師に会わせて欲しい。」
「え!?」

言葉も被せ気味にさらにと求められセドニーは困惑してしまう。頭の中では敬意もなく素直にこの人は何を言っているのだろうと開いた口がふさがらなかった。初対面にしては強引すぎるのではないか。いや、店にもたまにこういう客はいたなとセドニーの頭は完全に冷静になっていた。

「いや…それはちょっと…。」
「何故?」
「ええー…。」

お得意なのか何故何故攻撃にセドニーは考えることを放棄してただ面倒になってきたのを態度に出す。
さっきから食い気味にくるとは思っていたが、それは精神的なものだけではなく物理的にもそうだったようだ。一歩下がれば同じだけ詰め寄られている。

「どうしても確かめたい。占ってもらいたいんだ。」
「ちょ…っ。」

ただでさえ小さな部屋なのに目の前の人物の圧力もあって圧迫感がすごいなと思っていたら背に壁が当たっていたのだ。

いつの間にか部屋の反対側まで追い詰められていた。

「貴女の師に許可を取ればいいだけなのだろう?」
「やっ…!」

これ以上ないところまで追い詰められているのに金色の双眼がさらにと顔を近づけてくる。逃げようにも彼の両腕がセドニーの行く手を阻んでいた。全く気が付かなかった。

「近い!離れて!!」
「ぶっ!」

完全に追い詰められている自分を認識した瞬間、セドニーの中の恐怖心が爆発して渾身の力で目の前の男の顔を押し返した。
相手が怯んだ隙に腕の中から抜け出し反対側に逃げるとベッドにある枕を掴んで

「おい…っうわ!」

思い切り投げつけた。
クッションもおまけに投げつけるとチェストの上に置いてあった護身用の守りを手にして翳す。

「来ないで!早く出て行って!でないと…っ!!」

ぶつけられたクッションを外しながらセドニーを振り向いた男はぎょっとした顔でその反応を見せた。それもその筈だ。
セドニーは恐怖のあまり大きな瞳から涙を溢れさせていたのだから。

「強力な攻撃魔法を使いますよ!どうなってもいいんですか!?」

肩で息をしながら涙で震える声を懸命に張り上げて威嚇をしてくる女性が目の前にいる。その事実に不自然な態勢のまま固まってしまった。

「え…?えっと…。」

明らかに戸惑って、今迄からは考えられないくらい抜けた声が彼の口からこぼれる。