アズロの言葉にセドニーの目が大きく開いた。たぶん誤魔化そうとしたのだろう、何か言おうと笑みを浮かべて口が開くがそれもすぐになくなる。何度か瞬きを繰り返すと寂しそうに微笑んだセドニーが力なく呟いた。
「…どうして分かったの?」
「何となくだ。少し様子が違う様に感じた。」
「…そっか。」
よく見ているなと感心の言葉をこぼしてセドニーは小さく息を吐く。最初の言葉を探しているのだろう、視線を彷徨わせた後にゆっくりと目を閉じて深呼吸をした。
「…これからの事を考えたら…分からなくなって。」
「分からない?」
「どうしたらいいのか。」
目を逸らして答えてもアズロがそれを許してくれそうになかった。いや、セドニーの中の真意を探していた。ちらりと視線を合わせればアズロの綺麗な金色の双眼がセドニーに寄り添おうとしてくれている。
「…俺の存在が迷わせているのか?」
胸の中にあるものを言い当てられてしまいセドニーは思わず息を飲んだ。それは声にせずとも肯定したも同然だった。アズロの表情が厳しいものに変わっていきセドニーは慌てて言葉を繋ぐ。
「ち、違うの。そうじゃなくて…っ。」
「分かった…少なくとも俺が関わっているのは間違いないだろう?」
「…ごめん、アズロ。」
「何も謝ることじゃない。まずはセドニーの気持ちを聞かせて欲しい。」
この先セドニーはどうしていくつもりだったのかを、アズロが続けたその言葉にセドニーは小さく頷いて話し始めた。
「前は見習いを終えたら田舎に帰るつもりだったの。妹は学校もあるし…お兄ちゃんもいつ家を出るか分からないから、私が家の手伝いをしなきゃなって思ってて。」
自給自足に近い暮らしは人手がある方が回しやすい。幸いにも両親はまだ若いが兄妹に任せてばかりいるという事が気になって仕方がなかったのだ。妹はもっと遊びたいんじゃないか、兄は外に出たいのではないか、両親はセドニーに村に残って欲しいのではないか。確かめてもいない家族の本心を想像しては罪悪感が生まれる。
でも実際実家に行ってみれば自分がいなくても家族の生活は安定していて、セドニーが戻らなくても大丈夫なのだという事が分かってしまった。その事はセドニーの中では拍子抜けで、掴もうと思っていたものが手にする直前で消えてしまったように空振りした感覚になったのだ。そう口にすると空しくもなった。
実家は大丈夫だ、安心と共にきた寂しさに少し切なくなった。じゃあ次は自分の事だと顧みる。本当にこのままの状態で独り立ちして大丈夫なのかと。
「魔法屋から離れるって思ったら怖くなったの。襲われたこともあったし、それにまだまだ未熟だって自分自身が一番よく分かってるから。」
本当はまだ魔法屋にいたい、でもそれでは駄目だと首を横に振る。
「俺に気を遣ったのか。」
アズロの声にどう答えていいのか分からなかった。気を遣ったと言えばそうなる。でも見栄のようなものもあった。
「魔獣と一緒にいる魔女が…見習いでもないのに師の傍にいるって、もしかしたらアズロのプライドを傷つけるんじゃないかって。でもこのままの私も未熟すぎてアズロの足を引っ張るんじゃないかって。そう考えたら分からなくなって…っ。」
繋いだままの両手に力が籠ってアズロの手を強く掴んでしまう。心の中にあった不安を口にしてしまえば言葉に囚われて目が熱くなった。
どこまでも誠実に、敬意をもって自分を望んでくれるアズロに見合うようになりたい。それはアズロの傍にいるだけで当然の様に育った気持ちだ。敬意を持たれたままでいる為には強くならなければいけない。魔力も、セドニー自身もだ。
「セドニーは…どれが一番いいと思う?」
「分からない。」
「自分がなりたい自分になる為の近道を選んだらいい。…セドニーにとっての近道を。」
自分にとっての近道、その言葉はセドニーの揺らいでいた心に沁みこんで響く。それなら分かっている、でも口にするのは憚られた。
「教えてくれ、セドニー。」
そんなに優しい声で名前を呼ばないで欲しい、これでは誘われてしまう。思いが昂って涙がこぼれた。アズロは待っている。セドニーの本心が聞こえてくるのを待っている。
「…魔法屋に残ること。」
「…どうして分かったの?」
「何となくだ。少し様子が違う様に感じた。」
「…そっか。」
よく見ているなと感心の言葉をこぼしてセドニーは小さく息を吐く。最初の言葉を探しているのだろう、視線を彷徨わせた後にゆっくりと目を閉じて深呼吸をした。
「…これからの事を考えたら…分からなくなって。」
「分からない?」
「どうしたらいいのか。」
目を逸らして答えてもアズロがそれを許してくれそうになかった。いや、セドニーの中の真意を探していた。ちらりと視線を合わせればアズロの綺麗な金色の双眼がセドニーに寄り添おうとしてくれている。
「…俺の存在が迷わせているのか?」
胸の中にあるものを言い当てられてしまいセドニーは思わず息を飲んだ。それは声にせずとも肯定したも同然だった。アズロの表情が厳しいものに変わっていきセドニーは慌てて言葉を繋ぐ。
「ち、違うの。そうじゃなくて…っ。」
「分かった…少なくとも俺が関わっているのは間違いないだろう?」
「…ごめん、アズロ。」
「何も謝ることじゃない。まずはセドニーの気持ちを聞かせて欲しい。」
この先セドニーはどうしていくつもりだったのかを、アズロが続けたその言葉にセドニーは小さく頷いて話し始めた。
「前は見習いを終えたら田舎に帰るつもりだったの。妹は学校もあるし…お兄ちゃんもいつ家を出るか分からないから、私が家の手伝いをしなきゃなって思ってて。」
自給自足に近い暮らしは人手がある方が回しやすい。幸いにも両親はまだ若いが兄妹に任せてばかりいるという事が気になって仕方がなかったのだ。妹はもっと遊びたいんじゃないか、兄は外に出たいのではないか、両親はセドニーに村に残って欲しいのではないか。確かめてもいない家族の本心を想像しては罪悪感が生まれる。
でも実際実家に行ってみれば自分がいなくても家族の生活は安定していて、セドニーが戻らなくても大丈夫なのだという事が分かってしまった。その事はセドニーの中では拍子抜けで、掴もうと思っていたものが手にする直前で消えてしまったように空振りした感覚になったのだ。そう口にすると空しくもなった。
実家は大丈夫だ、安心と共にきた寂しさに少し切なくなった。じゃあ次は自分の事だと顧みる。本当にこのままの状態で独り立ちして大丈夫なのかと。
「魔法屋から離れるって思ったら怖くなったの。襲われたこともあったし、それにまだまだ未熟だって自分自身が一番よく分かってるから。」
本当はまだ魔法屋にいたい、でもそれでは駄目だと首を横に振る。
「俺に気を遣ったのか。」
アズロの声にどう答えていいのか分からなかった。気を遣ったと言えばそうなる。でも見栄のようなものもあった。
「魔獣と一緒にいる魔女が…見習いでもないのに師の傍にいるって、もしかしたらアズロのプライドを傷つけるんじゃないかって。でもこのままの私も未熟すぎてアズロの足を引っ張るんじゃないかって。そう考えたら分からなくなって…っ。」
繋いだままの両手に力が籠ってアズロの手を強く掴んでしまう。心の中にあった不安を口にしてしまえば言葉に囚われて目が熱くなった。
どこまでも誠実に、敬意をもって自分を望んでくれるアズロに見合うようになりたい。それはアズロの傍にいるだけで当然の様に育った気持ちだ。敬意を持たれたままでいる為には強くならなければいけない。魔力も、セドニー自身もだ。
「セドニーは…どれが一番いいと思う?」
「分からない。」
「自分がなりたい自分になる為の近道を選んだらいい。…セドニーにとっての近道を。」
自分にとっての近道、その言葉はセドニーの揺らいでいた心に沁みこんで響く。それなら分かっている、でも口にするのは憚られた。
「教えてくれ、セドニー。」
そんなに優しい声で名前を呼ばないで欲しい、これでは誘われてしまう。思いが昂って涙がこぼれた。アズロは待っている。セドニーの本心が聞こえてくるのを待っている。
「…魔法屋に残ること。」