「ねえ、アズロ!これ美味しそう、あれも!」
「お祝いだからな。好きなものを買っていこう。」
「うん!」
まるで誕生日を迎えた子供の様にセドニーははしゃいでしまっている。アズロはしっかりとセドニーの手を繋いだまま、彼女の思うがままに買い物に付き合った。お祝いの為に少し高めの大好きなお菓子を買った。サラダも買った。果実酒も買った。いつもより奮発した肉料理も買った。
「お兄さん、今日はお祝いかい?」
花屋の前を通りがかった時、アズロが店主に声を掛けられそのまま足を止める。
「主役はお嬢さんかな?お祝いと言ったら花だろう、彼女にプレゼントしてあげなよ。」
「ああ、そうだな。」
「あ、アズロ!?」
気前のいいアズロの返事に店主の女性は声を上げて笑う。色合いを手早く決めてあっという間に大きな花束が出来上がった。
「幸せだね、お嬢さん。大事にしてもらいな!」
渡された花束を開いている方の手で抱えるには少し大きい。それでも繋いだ手を離したくなくてセドニーは頑張って抱えた。店主の言葉に顔を真っ赤になったが嬉しい気持ちの方が強くて目が潤んだ。
「ありがとう…。」
「どういたしまして。」
まるで大きな花束がアズロの気持ちそのものを表しているようで擽ったい。どうしても抑えられない笑みをそのままに、二人はいっぱいの荷物と共に家へと並んで歩いた。
「アズロ、先にこの花束を活けてくるね。」
「ああ。」
家に着くなりセドニーはすぐにそう告げて手を離した。急ぎ足で洗面所へと向かうセドニーの背中を見つめる。
群れの中で暮らしていた頃、父親が当然の様に母親に花を贈るのを見ていた。だからかアズロとしては多少大きさや量が違っても花を贈るという事に少しの抵抗もなかったが、花屋での出来事は少し大げさな事をしてしまったのだと気付かされた。花束を受け取ったセドニーに対してお幸せに、おめでとう、いい記念日をなどと周りにいた人から祝福されたからだ。花束の大きさもそうだが、どうやら選んだ花が告白や求婚に使用されるものだったようで通りすがりの人にも反応されたという事だった。
どうりで花の種類を店主とやり取りしている時にセドニーが慌てていた訳だと後になって気付く。セドニーは知っていたのだろう、やたら祝福される事にアズロが首を傾げていたらその理由は彼女が教えてくれた。セドニーは意味を知っていた上で受け取ってくれたのだと思うとアズロの頬も緩む。
セドニーは祝われる度に顔を赤くしながらも照れくさそうにありがとうと答えて笑っていた。そのあとしばらく小さな声で恥ずかしいという唸り声が聞こえてきたことには知らない顔をする。
今朝方に思いを口にしてからセドニーに対する気持ちの置き所が少し変わった気がした。今までは常に横に、近くにいて、むしろ自分の背に隠して守り支えていかなければと思っていた。でもセドニーの父親との会話でその気持ちにズレがあることに気が付いたのだ。魔女としてではなくセドニー自身に自分の気持ちを向けた時、横だけじゃない、近くでは物足りない、この腕の中に抱きしめて見つめあっていたいという欲望が自分の中にあった。
それは敬意とは違う情だった。アズロはずっとその感情に触れながらも言葉にする方法を知らなかったのだ。態度でならいくらでも示すことが出来るのに言葉にするのは難しい。そして言葉にした途端に表現しようのないもどかしさが自分の中で暴れまわるのだ。
痒くなるような、痺れるような、自分一人ではとても消化できないこの衝動。セドニーに触れるだけですぐに解消されるのに、どうしてこんなに一人だと蝕んでくるのか理解できなかった。
「…~~~~っんああ!」
そんな事を思い出しアズロは人知れず顔を赤くして頭を掻いた。このざわつく心情はいままで味わったことがない。むず痒くて愛しい、なんとももどかしい物だろうと息を深く吸いながら天を仰いだ。
左耳の飾りが音を立てて揺れる、これはセドニーと対になっている耳飾りだ。やがて花を活けた花瓶をもって戻ってきたセドニーの右耳にも同じものが見えて笑みがこぼれる。
「見て!すごく綺麗!」
「ああ。」
「一気に華やかになるね!ありがとう、アズロ。」
何度目かのありがとうを伝えてセドニーは花の香りを吸い込んだ。幸せそうに微笑んだ横顔にアズロの心が満たされていく。
「お待たせ。お腹すいてるでしょ、すぐ用意を…。」
「セドニー。」
忙しなく食事の準備に取り掛かろうとするセドニーの両手を掴んでアズロはソファまで彼女を連れて行った。掴んだ手はそのままに二人は長いソファに横並びに座る。
「アズロ?」
「何か心配な事でもあったか?」
「お祝いだからな。好きなものを買っていこう。」
「うん!」
まるで誕生日を迎えた子供の様にセドニーははしゃいでしまっている。アズロはしっかりとセドニーの手を繋いだまま、彼女の思うがままに買い物に付き合った。お祝いの為に少し高めの大好きなお菓子を買った。サラダも買った。果実酒も買った。いつもより奮発した肉料理も買った。
「お兄さん、今日はお祝いかい?」
花屋の前を通りがかった時、アズロが店主に声を掛けられそのまま足を止める。
「主役はお嬢さんかな?お祝いと言ったら花だろう、彼女にプレゼントしてあげなよ。」
「ああ、そうだな。」
「あ、アズロ!?」
気前のいいアズロの返事に店主の女性は声を上げて笑う。色合いを手早く決めてあっという間に大きな花束が出来上がった。
「幸せだね、お嬢さん。大事にしてもらいな!」
渡された花束を開いている方の手で抱えるには少し大きい。それでも繋いだ手を離したくなくてセドニーは頑張って抱えた。店主の言葉に顔を真っ赤になったが嬉しい気持ちの方が強くて目が潤んだ。
「ありがとう…。」
「どういたしまして。」
まるで大きな花束がアズロの気持ちそのものを表しているようで擽ったい。どうしても抑えられない笑みをそのままに、二人はいっぱいの荷物と共に家へと並んで歩いた。
「アズロ、先にこの花束を活けてくるね。」
「ああ。」
家に着くなりセドニーはすぐにそう告げて手を離した。急ぎ足で洗面所へと向かうセドニーの背中を見つめる。
群れの中で暮らしていた頃、父親が当然の様に母親に花を贈るのを見ていた。だからかアズロとしては多少大きさや量が違っても花を贈るという事に少しの抵抗もなかったが、花屋での出来事は少し大げさな事をしてしまったのだと気付かされた。花束を受け取ったセドニーに対してお幸せに、おめでとう、いい記念日をなどと周りにいた人から祝福されたからだ。花束の大きさもそうだが、どうやら選んだ花が告白や求婚に使用されるものだったようで通りすがりの人にも反応されたという事だった。
どうりで花の種類を店主とやり取りしている時にセドニーが慌てていた訳だと後になって気付く。セドニーは知っていたのだろう、やたら祝福される事にアズロが首を傾げていたらその理由は彼女が教えてくれた。セドニーは意味を知っていた上で受け取ってくれたのだと思うとアズロの頬も緩む。
セドニーは祝われる度に顔を赤くしながらも照れくさそうにありがとうと答えて笑っていた。そのあとしばらく小さな声で恥ずかしいという唸り声が聞こえてきたことには知らない顔をする。
今朝方に思いを口にしてからセドニーに対する気持ちの置き所が少し変わった気がした。今までは常に横に、近くにいて、むしろ自分の背に隠して守り支えていかなければと思っていた。でもセドニーの父親との会話でその気持ちにズレがあることに気が付いたのだ。魔女としてではなくセドニー自身に自分の気持ちを向けた時、横だけじゃない、近くでは物足りない、この腕の中に抱きしめて見つめあっていたいという欲望が自分の中にあった。
それは敬意とは違う情だった。アズロはずっとその感情に触れながらも言葉にする方法を知らなかったのだ。態度でならいくらでも示すことが出来るのに言葉にするのは難しい。そして言葉にした途端に表現しようのないもどかしさが自分の中で暴れまわるのだ。
痒くなるような、痺れるような、自分一人ではとても消化できないこの衝動。セドニーに触れるだけですぐに解消されるのに、どうしてこんなに一人だと蝕んでくるのか理解できなかった。
「…~~~~っんああ!」
そんな事を思い出しアズロは人知れず顔を赤くして頭を掻いた。このざわつく心情はいままで味わったことがない。むず痒くて愛しい、なんとももどかしい物だろうと息を深く吸いながら天を仰いだ。
左耳の飾りが音を立てて揺れる、これはセドニーと対になっている耳飾りだ。やがて花を活けた花瓶をもって戻ってきたセドニーの右耳にも同じものが見えて笑みがこぼれる。
「見て!すごく綺麗!」
「ああ。」
「一気に華やかになるね!ありがとう、アズロ。」
何度目かのありがとうを伝えてセドニーは花の香りを吸い込んだ。幸せそうに微笑んだ横顔にアズロの心が満たされていく。
「お待たせ。お腹すいてるでしょ、すぐ用意を…。」
「セドニー。」
忙しなく食事の準備に取り掛かろうとするセドニーの両手を掴んでアズロはソファまで彼女を連れて行った。掴んだ手はそのままに二人は長いソファに横並びに座る。
「アズロ?」
「何か心配な事でもあったか?」