自分が運ばれていることは何となく気付いていたが止まらない涙に必死でセドニーはそれ以上何も考えなかった。やがて適当な岩を見つけるとアズロはセドニーを抱えたまま腰を下ろした。
ここなら家からも距離があり話声で家族を起こすこともないだろう。妙な気配も感じないから危険もない筈だとアズロは一人胸の内で納得した。
環境は整った、あとはセドニーを安心させることだけだ。それが一番重要で難しい事だとも分かっている。アズロは手の位置を少しずらしてセドニーの頭を優しく撫で始めた。どうか少しでも彼女が早く安心を得られますようにと。
そのまま撫で続けて腕の中のセドニーが落ち着くのを静かに待つ。似たようなことがあったと思い出してアズロは眉を寄せた。そう、セドニーを危険な目に合わせてしまった時だ。自分が傍についていながらセドニーはまた肩を震わせて身を縮めている、その事が切なくて不甲斐なくて情けなくなった。
つい昨日の出来事ではないかと、アズロは自分を深く責める。まだセドニーは恐怖から抜け出せなくても仕方がない、こうやって最終試験に挑んでいることも無茶だとアズロは感じていたのだ。本当なら温かい安全な場所でもう少し時間をかけて癒していきたかった。
でもセドニーは望まなかった。すぐにでも立ち上がり前に進みたいと鼓舞して歩き出す。そんな彼女を誇らしく思うと同時に助けてあげたいと強く願うのだ。
「セドニー。」
そう呟くなりアズロはセドニーの頭にキスを落とした。頭に落ちたふわりとうずく感覚にセドニーの目が大きく開く。
「アズロ…?」
僅かに顔を上げたセドニーの、今度は額にもキスを落とし抱える腕に力を入れる。驚いたセドニーは身体を硬直させ、衝撃が強かったのか涙も止まったようだった。目の前にいるのは心配そうに様子を窺うアズロの綺麗な顔だ。
「どうした…。」
そう言いながらセドニーの涙を拭ってやるアズロはとても優しかった。いや、アズロはいつも優しかったのだ。
対の魔女であることを大事にして、でもセドニー自身も大切にしてくれる。親切にしてくれる。そこに愛情がないから辛いのだ。
魔女であること以上に自分を愛してほしいと望んでしまったセドニーの我儘だと分かっていても、もう止められない気持ちは彼女の中で暴走してしまう。
「私、アズロのことが好きなの。」
優しい空気に触れて告げる筈のなかった思いが口から滑り落ちた。急に告げられた気持ちにアズロはただ驚いて目を大きく見開いている。それはそうだ、アズロにとっては泣いている理由を話してもらえると思っていただろう。まさかの告白に固まってしまうのは当然だった。
言ってしまったセドニーも出してしまった言葉を戻すことが出来ずに視線を逸らして固まっている。どうしよう、余計な事を言ってしまったという後悔がどんどん押し寄せてきた。
ダメだ、ここはもう適当に感謝の気持ちと繋げて切り上げるしかない。そう腹決めしたセドニーは逸らしてしまっていた視線をアズロに戻すべく息を吸いながら見上げた瞬間だった。
「え?」
目の前には顔を真っ赤にして照れているアズロの姿があったのだ。セドニーの視線を感じて我に返ったのか、顔を隠したくてもセドニーを抱えているため両手は塞がっている。視線も首も忙しなく動いて逃げ場を探すも見つかりそうになく、セドニーと目があえばさらに赤みを増して瞬きを増やした。
「アズロ?」
問いかければ何か答えようと口をパクパクさせるも声が出ていない。照れに焦りが混じってさらにアズロの動きが忙しなくなった。身体が落ち着かなくて小刻みに弾む振動がセドニーにも伝わってくる。
セドニーを抱えたままその場に立って、座って、立って、座って。どれだけ自分の位置を変えようとしても抱えている以上二人の距離は変わらないことに気付いて最後はまた座って終わる。
「はあああああ…駄目だ…。」
何かを諦めたアズロは情けない声を吐き出しながら項垂れてセドニーに覆いかぶさってきた。セドニーの胸元あたり、自分の心臓に近い場所にアズロの頭があってセドニーは緊張感を増した。近い。でもいまそれを口にするのは躊躇われて必死に耐える。
アズロの唸る声が微かに聞こえてきて彼もまた悶えているのだと気付かされた。
ここなら家からも距離があり話声で家族を起こすこともないだろう。妙な気配も感じないから危険もない筈だとアズロは一人胸の内で納得した。
環境は整った、あとはセドニーを安心させることだけだ。それが一番重要で難しい事だとも分かっている。アズロは手の位置を少しずらしてセドニーの頭を優しく撫で始めた。どうか少しでも彼女が早く安心を得られますようにと。
そのまま撫で続けて腕の中のセドニーが落ち着くのを静かに待つ。似たようなことがあったと思い出してアズロは眉を寄せた。そう、セドニーを危険な目に合わせてしまった時だ。自分が傍についていながらセドニーはまた肩を震わせて身を縮めている、その事が切なくて不甲斐なくて情けなくなった。
つい昨日の出来事ではないかと、アズロは自分を深く責める。まだセドニーは恐怖から抜け出せなくても仕方がない、こうやって最終試験に挑んでいることも無茶だとアズロは感じていたのだ。本当なら温かい安全な場所でもう少し時間をかけて癒していきたかった。
でもセドニーは望まなかった。すぐにでも立ち上がり前に進みたいと鼓舞して歩き出す。そんな彼女を誇らしく思うと同時に助けてあげたいと強く願うのだ。
「セドニー。」
そう呟くなりアズロはセドニーの頭にキスを落とした。頭に落ちたふわりとうずく感覚にセドニーの目が大きく開く。
「アズロ…?」
僅かに顔を上げたセドニーの、今度は額にもキスを落とし抱える腕に力を入れる。驚いたセドニーは身体を硬直させ、衝撃が強かったのか涙も止まったようだった。目の前にいるのは心配そうに様子を窺うアズロの綺麗な顔だ。
「どうした…。」
そう言いながらセドニーの涙を拭ってやるアズロはとても優しかった。いや、アズロはいつも優しかったのだ。
対の魔女であることを大事にして、でもセドニー自身も大切にしてくれる。親切にしてくれる。そこに愛情がないから辛いのだ。
魔女であること以上に自分を愛してほしいと望んでしまったセドニーの我儘だと分かっていても、もう止められない気持ちは彼女の中で暴走してしまう。
「私、アズロのことが好きなの。」
優しい空気に触れて告げる筈のなかった思いが口から滑り落ちた。急に告げられた気持ちにアズロはただ驚いて目を大きく見開いている。それはそうだ、アズロにとっては泣いている理由を話してもらえると思っていただろう。まさかの告白に固まってしまうのは当然だった。
言ってしまったセドニーも出してしまった言葉を戻すことが出来ずに視線を逸らして固まっている。どうしよう、余計な事を言ってしまったという後悔がどんどん押し寄せてきた。
ダメだ、ここはもう適当に感謝の気持ちと繋げて切り上げるしかない。そう腹決めしたセドニーは逸らしてしまっていた視線をアズロに戻すべく息を吸いながら見上げた瞬間だった。
「え?」
目の前には顔を真っ赤にして照れているアズロの姿があったのだ。セドニーの視線を感じて我に返ったのか、顔を隠したくてもセドニーを抱えているため両手は塞がっている。視線も首も忙しなく動いて逃げ場を探すも見つかりそうになく、セドニーと目があえばさらに赤みを増して瞬きを増やした。
「アズロ?」
問いかければ何か答えようと口をパクパクさせるも声が出ていない。照れに焦りが混じってさらにアズロの動きが忙しなくなった。身体が落ち着かなくて小刻みに弾む振動がセドニーにも伝わってくる。
セドニーを抱えたままその場に立って、座って、立って、座って。どれだけ自分の位置を変えようとしても抱えている以上二人の距離は変わらないことに気付いて最後はまた座って終わる。
「はあああああ…駄目だ…。」
何かを諦めたアズロは情けない声を吐き出しながら項垂れてセドニーに覆いかぶさってきた。セドニーの胸元あたり、自分の心臓に近い場所にアズロの頭があってセドニーは緊張感を増した。近い。でもいまそれを口にするのは躊躇われて必死に耐える。
アズロの唸る声が微かに聞こえてきて彼もまた悶えているのだと気付かされた。