「魔獣と魔女の関係は伴侶のような絆に近いとされている。互いに唯一の相手として人生を共にするからだ。」
唯一の相手という言葉に父親は全身で反応して椅子から立ち上がりそうになる。兄も眉間のしわを深くしたが、やはり母親が何も言わないので堪えたようだ。
「もちろんそれには理由がある。俺たち魔獣は余程強い魔力を持った魔女としか深い関わりは持たない。魔獣は自然の中に生きる存在、それは魔女も同じだが魔女の存在は世界の理からすると異質なものだ。本来の人間という枠組みから離れてしまっている。」
「…どういう事だ?」
「本来人間にない力を持っている、それが魔女だから。元々の世界の仕組みでいうとどこにも属せない…歪みみたいなものなんだって。」
「…セドニーが歪みだと?」
父からの疑問の声に答えたのはセドニー自身だった。大方の話はこれまでにラリマから聞いていたかもしれないが、魔獣の話はセドニーでさえも聞いたことがなかったのでおそらく家族も初めて聞く話だろう。
そう考えたセドニーは自分自身の中で噛み砕いた己の存在を父親に説明したのだ。しかしその言い様に父親だけでなく他の家族も不快感を示した。その怒りはアズロに向かおうとしていたがセドニーは首を横に振ってそうではないと先に態度で表す。
「これは師匠から言われた言葉なの。アズロたちは魔女をそんな風に扱わない。」
「ラリマさんの…?だとしても言い方ってものがあるだろう?!」
「強い魔力を持つ魔女はその分…世界の理を乱してしまうから自分たちへの戒めなんだって。師匠も魔獣と一緒に生きている魔女の一人なの。」
セドニーから諭されるように説明されても到底納得がいかなかった。しかし話にはまだ続きがある。その事を察した父親はしかめた表情のまま口を閉ざして一度引いた。そしてまたアズロが説明を続ける。
「精霊が自然を作り育て、魔獣は世界を整え保つ役割を持つ。魔女は精霊の力を借りて魔法を使う、魔獣は精霊と魔女の架け橋の様な役割を果たす事が多い。力の強い魔女は精霊から多くの力を借りることがあるからだ。」
「…よく分からないわ。精霊の力…?」
疑問の声を出したのは母親だ。
「魔女は自分の魔力を魔法にする時に精霊の力が必要になる。」
「つまり…魔力があっても精霊がいなかったら魔法が使えないってこと?」
「ああ。そして魔獣は魔女に魔力を与えることが出来、逆に奪う事も出来る。そういう関係性でもある。」
思いの外難しい話になっていく事に驚いた様子の家族は、先ほどまでの動揺や怒りを置いてアズロの話に真剣に耳を傾ける。出だしの衝撃が強かっただけに歪んだ見方しか出来なかったが、今はセドニーの状況を理解しようと感情を変えたようだ。
アズロの説明は続いた。
「俺は黒ヒョウ族で魔獣の中でも高位の階級だ。見習い魔女であるセドニーに黒ヒョウの俺が付いているのはセドニーの魔力がそれだけ大きいという事だ。魔獣と魔女の繋がりが深いのは互いに支えあっているからだ。俺たち魔獣は魔女に魔力を求め、魔女は魔獣に守護を求める。」
アズロの言葉を聞いてセドニーは昨日の事を思い出し表情を曇らせる。
「セドニーは歪みと言ったが…俺たち魔獣にとって魔女は世界を繋ぐ役割だ。存在自体に価値があり、魔力が高いほどそれは顕著に表れる。種族は関係なく…強い力を持つ存在は狙われることもある。」
「セドニー、危ない目にあったことがあるのか?」
セドニーの雲った表情、アズロの言葉から察した父親が低い声で優しく触れるようにセドニーに尋ねた。その声に顔を上げたセドニーは少し戸惑いながらも小さく頷いて答える。
「ちょっとね…。でもアズロが助けてくれた。」
その言葉に申し訳なさそうにアズロは微笑むことしかできない。アズロにとっては完全に守りきれたとはいえない出来事だったからだ。
「魔女を守り支える為に魔獣は常に傍にいる。それは生涯、どちらかの命が尽きるまで続く。だから俺はセドニーをこの先も変わらず守り支える。」
「…アズロ。」
次からは絶対に守り切る、その決意を込めて口にした言葉はセドニーだけに捧げられた。そこはもう完全に二人の世界だった。相変わらず意志の強い眼差しはセドニーに向けられ、言いようのない恥ずかしさが全身に広がっていくのだ。
「…これは何を見させられてるの?」
「黙ってろ。」
段々と説明からただの愛の告白へと変化したアズロに家族は目を細めるしかない。思わず突っ込んだマリンを諫めたのは意外にも兄だった。
唯一の相手という言葉に父親は全身で反応して椅子から立ち上がりそうになる。兄も眉間のしわを深くしたが、やはり母親が何も言わないので堪えたようだ。
「もちろんそれには理由がある。俺たち魔獣は余程強い魔力を持った魔女としか深い関わりは持たない。魔獣は自然の中に生きる存在、それは魔女も同じだが魔女の存在は世界の理からすると異質なものだ。本来の人間という枠組みから離れてしまっている。」
「…どういう事だ?」
「本来人間にない力を持っている、それが魔女だから。元々の世界の仕組みでいうとどこにも属せない…歪みみたいなものなんだって。」
「…セドニーが歪みだと?」
父からの疑問の声に答えたのはセドニー自身だった。大方の話はこれまでにラリマから聞いていたかもしれないが、魔獣の話はセドニーでさえも聞いたことがなかったのでおそらく家族も初めて聞く話だろう。
そう考えたセドニーは自分自身の中で噛み砕いた己の存在を父親に説明したのだ。しかしその言い様に父親だけでなく他の家族も不快感を示した。その怒りはアズロに向かおうとしていたがセドニーは首を横に振ってそうではないと先に態度で表す。
「これは師匠から言われた言葉なの。アズロたちは魔女をそんな風に扱わない。」
「ラリマさんの…?だとしても言い方ってものがあるだろう?!」
「強い魔力を持つ魔女はその分…世界の理を乱してしまうから自分たちへの戒めなんだって。師匠も魔獣と一緒に生きている魔女の一人なの。」
セドニーから諭されるように説明されても到底納得がいかなかった。しかし話にはまだ続きがある。その事を察した父親はしかめた表情のまま口を閉ざして一度引いた。そしてまたアズロが説明を続ける。
「精霊が自然を作り育て、魔獣は世界を整え保つ役割を持つ。魔女は精霊の力を借りて魔法を使う、魔獣は精霊と魔女の架け橋の様な役割を果たす事が多い。力の強い魔女は精霊から多くの力を借りることがあるからだ。」
「…よく分からないわ。精霊の力…?」
疑問の声を出したのは母親だ。
「魔女は自分の魔力を魔法にする時に精霊の力が必要になる。」
「つまり…魔力があっても精霊がいなかったら魔法が使えないってこと?」
「ああ。そして魔獣は魔女に魔力を与えることが出来、逆に奪う事も出来る。そういう関係性でもある。」
思いの外難しい話になっていく事に驚いた様子の家族は、先ほどまでの動揺や怒りを置いてアズロの話に真剣に耳を傾ける。出だしの衝撃が強かっただけに歪んだ見方しか出来なかったが、今はセドニーの状況を理解しようと感情を変えたようだ。
アズロの説明は続いた。
「俺は黒ヒョウ族で魔獣の中でも高位の階級だ。見習い魔女であるセドニーに黒ヒョウの俺が付いているのはセドニーの魔力がそれだけ大きいという事だ。魔獣と魔女の繋がりが深いのは互いに支えあっているからだ。俺たち魔獣は魔女に魔力を求め、魔女は魔獣に守護を求める。」
アズロの言葉を聞いてセドニーは昨日の事を思い出し表情を曇らせる。
「セドニーは歪みと言ったが…俺たち魔獣にとって魔女は世界を繋ぐ役割だ。存在自体に価値があり、魔力が高いほどそれは顕著に表れる。種族は関係なく…強い力を持つ存在は狙われることもある。」
「セドニー、危ない目にあったことがあるのか?」
セドニーの雲った表情、アズロの言葉から察した父親が低い声で優しく触れるようにセドニーに尋ねた。その声に顔を上げたセドニーは少し戸惑いながらも小さく頷いて答える。
「ちょっとね…。でもアズロが助けてくれた。」
その言葉に申し訳なさそうにアズロは微笑むことしかできない。アズロにとっては完全に守りきれたとはいえない出来事だったからだ。
「魔女を守り支える為に魔獣は常に傍にいる。それは生涯、どちらかの命が尽きるまで続く。だから俺はセドニーをこの先も変わらず守り支える。」
「…アズロ。」
次からは絶対に守り切る、その決意を込めて口にした言葉はセドニーだけに捧げられた。そこはもう完全に二人の世界だった。相変わらず意志の強い眼差しはセドニーに向けられ、言いようのない恥ずかしさが全身に広がっていくのだ。
「…これは何を見させられてるの?」
「黙ってろ。」
段々と説明からただの愛の告白へと変化したアズロに家族は目を細めるしかない。思わず突っ込んだマリンを諫めたのは意外にも兄だった。