久しぶりの家族との再会は嬉しいが、面倒な部分をアズロに見せてしまっただけではなく騒動に巻き込んだことが申し訳ない。どうやってアズロを解放しようか、いい案が思い浮かばないセドニーはとりあえずお互いの近況で誤魔化そうと企んだ。

これ以上は収拾がつかなくなるだけだ。

「あのね…。」
「趣味やらは分からないが…セドニーをどう思うかは簡単だ。尊敬し、大切に思っている。俺にはなくてはならない唯一の魔女だ。」

ある意味アズロが一番の爆弾だとセドニーが悟った瞬間だった。

またも歓喜の母と妹からは悲鳴が起こり、殺気をまとった父と兄からはすぐに飛び掛からんとする気配が強くなった。

「きゃあああ!!ちょっと、お姉ちゃん聞いた!?やっぱり恋人なのね!?」
「なにい!?恋人なんて認めんぞ!」
「あらやだ!セドニーったらこんな素敵な人捕まえて!」
「…追い出すか。」

もう何から答えていいのか分からずセドニーは恥ずかしさのあまり顔を両手で覆って現実から意識を逃がす。そうだった、アズロはこういうタイプだったと今更思い出しても遅かった。

誰から止めてどこを説明すればいいのかもうお手上げだ。これはもう強引にでも終わらせるしかない、でもその術が少しも思い浮かばなかった。とにかく逃げたい、その一言に尽きる。

「恋人というより…俺はセドニーを生涯の伴侶だとして、そう願い出ている。」
「え?」

しまった、現実逃避の前にアズロにこれ以上の発言を止めておくべきだったとセドニーが激しく後悔したのは言うまでもない。アズロのこの発言を受けて盛り上がったのはマリン一人だけで、さすがに生涯の伴侶という言葉に母親も手放しでは喜べないようだと空気で感じた。

ああ、一体何をしにここに来たのだろう。セドニーの嘆きは空中分解されて儚くも溶けていく。

「…セドニー、結婚ともなると親に相談がないのは許せませんよ?」
「…はい、まず説明させてください…。」

母親の笑顔の奥にある静かな怒りを察知した家族は何も口出ししようとはしなかった。ここで火の粉をくらうわけにはいかないと全員が沈黙を貫く。

どうせなら自分も沈黙側に行きたかったとどれだけセドニーが寝嘆いても無理な話だった。今日の議題は自分なのだから。

覚悟を決める為の息を一つ、短く落として腹決めをする。いずれは言わなければいけないことを今からするのだと自分の背中を押した。だってもう、セドニーはアズロの対の魔女になることを決意したのだから。

「まず…今日ここに来たのはさっきも言った通り師匠からの見習い卒業試験で…私は合格をもらったら見習い課程を修了して独り立ちが出来るの。多くの魔女は独り立ちすると、自分の魔力に合ったパートナーと一緒に過ごすことが多くて…。それは精霊だったり、使い魔だったり…人によるんだけど私の場合は魔獣であるアズロだったの。」

アズロの名前を出した時に彼の前に手を出して改めて家族に紹介をした。セドニーと視線を合わせたアズロが静かに頷いて受け止める。良かった、変な空気になってしまってもアズロは平常心のままその場に留まってくれている。

きっとこの場を自分に任せてくれているのだとセドニーは感じた。

セドニーは自分の右耳にあるアズロと揃いの飾りに触れてまた背筋を伸ばす。彼女の手の動きは全員の視線を集め、家族には二人が揃いの耳飾りをしていることが示された。その事が面白くないと感じているのはやはり父と兄で、それは顕著に表情に出ている。

「魔獣と魔女の関係は…、少し親密で。」

それ以上は恥ずかしさもあってなかなか口に出せず、言葉を探すセドニーの声が弱弱しく行ったり来たりする。追求するのではなくセドニーからの説明を待つ母親は自分から口を開こうとはしなかった。

母親が何も言わない以上、問い詰めたいのを我慢して家族は煮え切らない言葉の行先をただひたすら待っている。そこに助け舟を出したのはアズロだった。