「セドニー、いつまで居られるの?」
「え、えっと…。」

最終試験は明日の昼までに戻ればいいと言われていた。

「…明日の朝に戻ればいいかな。」
「そうなの!じゃあ泊っていきなさい。すぐにご飯の準備をするわ。」
「やった!お喋りしようよ、お姉ちゃん!」
「父さん、ワインでも出す?」
「おっいいな!アクア、お前も飲むだろう?」
「俺は少しだけ。」

これはラリマから与えられた時間なのだと察したセドニーは久しぶりに実家に泊まることにした。もちろんアズロもそうなるのだが、そうすると家族には伝えなくてはいけないことが出てくる。アズロの事を伝えようとタイミングを図るのだが、誰かしらが常に喋り盛り上がり全く思うように事が進まなかった。

都会の話を聞かせてくれと妹のマリンがせがめば、大人になどならなくてもいいと父親が泣き、困ったことがないかと尋ねれば大丈夫だとセドニーが答えても苦労をしていると感じている父親が泣くと言った具合だった。そしてマリンが呆れて吐いた暴言に父親が憤慨して、といった繰り返しが行われている。

とにかく終始父親が忙しく感情を総動員させて盛り上がっていた。

「お父さん邪魔だからあっちいってくれない?お姉ちゃんの声が全然聞こえないんだけど。」
「邪魔とはなんだ!セドニーに久しぶりに会えて嬉しいのは皆一緒だぞ!?」
「お父さんばっかり喋ってんじゃん。」
「そんなことは無いぞ!皆だって聞きたいだろう、セドニーが今まで…。」
「父さん、少し声を抑えてくれ。」

時間の経過を感じられるのは台所から漂ってくる美味しそうな匂いくらいだった。
兄のアクアは黙っていた。たまに呟く毒舌以外は黙っていた。アズロは圧倒され目を丸くしたまま静かに部屋の端からその光景を眺めていたが、騒ぎの中心にいるセドニーも同じようなものだった。

「ほら、とりあえず食事にしましょう!」
「ね、お姉ちゃん…実はさ…。」

ラリマがぬいぐるみを預けに来てから、いつセドニーが帰ってきてもいいように両親は食べ物を用意しなるべく家にいるようにしていたと妹のマリンが耳打ちをしてきた。

「そう…なんだ。」

家族は待っていてくれた、そのことが嬉しくてたまらないセドニーの目がまた熱を帯びて潤む。食卓に並んだのはセドニーの好物ばかり、そして少し贅沢なお酒だった。

アズロにも是非食べてほしい。そう強く思ったセドニーは今こそと声を出した。

「ご飯の前に、改めて紹介したい人がいるの。」

まだ椅子に座らずに立っていたセドニーは少し離れていたところで待機していたアズロの元に歩いていく。紹介したい人、人という言葉に家族が強く反応していることをセドニーたちは気が付いてはいなかった。セドニーはアズロの前で膝を吐くと微笑んでまず名前を呼ぶ。

「アズロ、いいかな。」
「ああ、光栄なことだ。」

猫が喋ったことに驚いた家族はガタガタと机や椅子を揺らして目を見開いた。その様子を見たセドニーは全員に念の為、机から少し離れて立っていて欲しいと声をかける。

「話せば長くなるんだけど…まず彼を紹介させてね。彼の名前はアズロ、私と対の契約を結んだ魔獣なの。」
「彼!?魔獣!?」

一番強い反応を見せたのは予想通り父親だった。思った通りの表情にセドニーは苦笑いを浮かべるとアズロの方を見つめる。

「今は猫の姿をしてくれているけど…本当は黒ヒョウなんだ。」

そう言って頷いたセドニーの意を汲んでアズロは黒ヒョウの姿へと変えた。可愛らしい猫から一変、急に目の前に現れた猛獣に当然悲鳴が上がる。

「きゃあああ!」

思わず父親は母親をかばい、兄のアクアは妹のマリンを自分の背中に隠した。

「あ、驚かないで!ごめん!アズロはすごく優しいから!!」
「セドニー、すまない。姿を変えよう。」

当然すぐには受け入れられるわけがない、アズロはセドニーの意思を窺う前に黒ヒョウから人へと姿を変えた。この姿が一番見やすいだろうと考えたからだ。
しかし今度は女性陣から違う声色の悲鳴が聞こえてきた。

「きゃああああああ!」

これは歓喜の黄色い声だ。これには思わずアズロの方が身を引いて目を大きく見開いた。