「…良かった、見つけられた。」
ウサギのぬいぐるみを両手で胸に押し当てて安堵の息を吐く。ぬいぐるみは見つけた、あとは期限までにラリマに届けることが出来たら試験は合格できる。
次は無事に帰ることが出来るかどうかだと思うとまた違う緊張感がセドニーを包んだ。
「すごいわね、本当に見つけられるなんて。」
「師匠が持ってきたの?」
「ええ。つい先日ね。近いうちにセドニーが取りに来るからって。」
「そっか。」
ラリマの優しさを感じてセドニーはまた目が潤んだ。弟子入りしてからは手紙のやり取り以外でこの家とは関わっていない事をいつも気にしてくれていた。
一人前になって自分で帰りたかったという意地をきっとラリマは知っていたのだろう。いつも軽く促すだけで無理強いはしなかった。そしてきっとアズロというパートナーを得たことでまた帰省する意思が弱くなるのではないかと懸念したのだ。
「師匠は私に甘いなあ…。」
「本当によくしてくださっているのね。」
「うん。昔からずっとね。」
ラリマの心に触れて感動しているセドニーに母が寄り添ってくれた。母親としても自分の娘を大切にしてくれていることは嬉しいのだ、その事を噛みしめた言葉だった。
「ラリマさんはな、何度かウチに顔を出してはお前の様子を教えてくれていたんだぞ?映像で見せてくれたりな、調合に失敗して顔面草まみれになったのは傑作だったな!」
「え!?そんな見せたの!?」
「初めて店頭に立った時のもあったわよ?あと初めての接客、初めての指名、初めての友達、初めての…。」
「なっ…何それ!!!?」
「ラリマさんって娘を見る母親っていうより…孫を見守るお祖母ちゃんみたいな所ない?セドニーちゃん可愛いーみたいな。」
「これ!まだ若い人に向かってそういう事言わないの!」
もともと過保護、溺愛されている事は気付いていたが、まさか記録までしていたとは思わなかった。そういえばタイガが色々とセドニーの様子を確認しているとは言っていたが、まさかセドニーの実家までそれを共有されているとは。
今までの知らされていなかったあれやこれやを知ってしまったセドニーの羞恥心は半端ない。恥ずかしさと、嬉しさと、もどかしさと、苛立ちと、どこを中心に悶えていいのか分からず両手で顔を覆う。
「ああああああああああ…知られたくないことまでえええ…。」
「お姉ちゃんの初デートの映像は来なかったけど、本当に恋人とかいなかったの?ラリマさんとかそういうの父親みたいに反対しそうではあるけどさ。」
「馬鹿な事を言うな、マリン!セドニーに限ってそんなことあるわけないだろう!?」
「ほら、こんな感じでさ。」
羞恥に悶えるセドニーと追い打ちをかける妹、畳みかけるように否定する父親を軽く受け流す様子はきっと日常なのだとアズロは悟った。ラリマの中にも若干狂気に満ちた愛情があったが、本家はこっちなのだと理解する。
自分もなかなかデートを許してもらえないと不貞腐れる妹マリンに父親はまだ早いと憤慨した。呆れる母親の視線を感じて涙目になる父親の姿は少し可哀そうにも見える。そしてアズロの中にふと過ったのだ。
もしかして自分の存在は着火剤になるのではないのかと。
「ただいま。あれ、セドニー?帰ったのか?」
「お兄ちゃん!?」
父親によく似ているが、父親よりも少し愛想を無くした切れ目の青年が帰ってきた。成程確かに彼もセドニーと雰囲気が似ているとアズロは静かに感心する。そして彼だけがアズロの存在に気が付きセドニーに問いかけた。
「この黒猫はセドニーの連れか?」
「あ、ごめん!アズロ!」
ようやくアズロの事を思い出したセドニーが焦って駆け寄ろうとするが、アズロは微笑んで首を横に振る。自分は外で待つと開いたままの戸から出ようとするが、屈んだ兄のアクアに寄って阻まれた。
「せっかくだ。このまま中に居てくれ。」
「そうだよ。アズロ!」
思わぬ申し出に目を丸くするが、兄に続いてセドニーもアズロを引き留めたので留まることにした。
ウサギのぬいぐるみを両手で胸に押し当てて安堵の息を吐く。ぬいぐるみは見つけた、あとは期限までにラリマに届けることが出来たら試験は合格できる。
次は無事に帰ることが出来るかどうかだと思うとまた違う緊張感がセドニーを包んだ。
「すごいわね、本当に見つけられるなんて。」
「師匠が持ってきたの?」
「ええ。つい先日ね。近いうちにセドニーが取りに来るからって。」
「そっか。」
ラリマの優しさを感じてセドニーはまた目が潤んだ。弟子入りしてからは手紙のやり取り以外でこの家とは関わっていない事をいつも気にしてくれていた。
一人前になって自分で帰りたかったという意地をきっとラリマは知っていたのだろう。いつも軽く促すだけで無理強いはしなかった。そしてきっとアズロというパートナーを得たことでまた帰省する意思が弱くなるのではないかと懸念したのだ。
「師匠は私に甘いなあ…。」
「本当によくしてくださっているのね。」
「うん。昔からずっとね。」
ラリマの心に触れて感動しているセドニーに母が寄り添ってくれた。母親としても自分の娘を大切にしてくれていることは嬉しいのだ、その事を噛みしめた言葉だった。
「ラリマさんはな、何度かウチに顔を出してはお前の様子を教えてくれていたんだぞ?映像で見せてくれたりな、調合に失敗して顔面草まみれになったのは傑作だったな!」
「え!?そんな見せたの!?」
「初めて店頭に立った時のもあったわよ?あと初めての接客、初めての指名、初めての友達、初めての…。」
「なっ…何それ!!!?」
「ラリマさんって娘を見る母親っていうより…孫を見守るお祖母ちゃんみたいな所ない?セドニーちゃん可愛いーみたいな。」
「これ!まだ若い人に向かってそういう事言わないの!」
もともと過保護、溺愛されている事は気付いていたが、まさか記録までしていたとは思わなかった。そういえばタイガが色々とセドニーの様子を確認しているとは言っていたが、まさかセドニーの実家までそれを共有されているとは。
今までの知らされていなかったあれやこれやを知ってしまったセドニーの羞恥心は半端ない。恥ずかしさと、嬉しさと、もどかしさと、苛立ちと、どこを中心に悶えていいのか分からず両手で顔を覆う。
「ああああああああああ…知られたくないことまでえええ…。」
「お姉ちゃんの初デートの映像は来なかったけど、本当に恋人とかいなかったの?ラリマさんとかそういうの父親みたいに反対しそうではあるけどさ。」
「馬鹿な事を言うな、マリン!セドニーに限ってそんなことあるわけないだろう!?」
「ほら、こんな感じでさ。」
羞恥に悶えるセドニーと追い打ちをかける妹、畳みかけるように否定する父親を軽く受け流す様子はきっと日常なのだとアズロは悟った。ラリマの中にも若干狂気に満ちた愛情があったが、本家はこっちなのだと理解する。
自分もなかなかデートを許してもらえないと不貞腐れる妹マリンに父親はまだ早いと憤慨した。呆れる母親の視線を感じて涙目になる父親の姿は少し可哀そうにも見える。そしてアズロの中にふと過ったのだ。
もしかして自分の存在は着火剤になるのではないのかと。
「ただいま。あれ、セドニー?帰ったのか?」
「お兄ちゃん!?」
父親によく似ているが、父親よりも少し愛想を無くした切れ目の青年が帰ってきた。成程確かに彼もセドニーと雰囲気が似ているとアズロは静かに感心する。そして彼だけがアズロの存在に気が付きセドニーに問いかけた。
「この黒猫はセドニーの連れか?」
「あ、ごめん!アズロ!」
ようやくアズロの事を思い出したセドニーが焦って駆け寄ろうとするが、アズロは微笑んで首を横に振る。自分は外で待つと開いたままの戸から出ようとするが、屈んだ兄のアクアに寄って阻まれた。
「せっかくだ。このまま中に居てくれ。」
「そうだよ。アズロ!」
思わぬ申し出に目を丸くするが、兄に続いてセドニーもアズロを引き留めたので留まることにした。