カツンッ

何か落としたような音を拾ってセドニーは足を止めた。足元を見てみると耳飾りが一つそこに転がっている。

「えっ!?うそ!?」

今朝貰ったばかりの耳飾りだと気付いて慌てて拾い上げた。なんてことをしたんだと焦りながら壊れていないか確認する。

「…ん?」

そこで初めて違和感を覚えた。よく見ると耳飾りの核となる石の色も、装飾の模様も違う。よく似ているが今朝貰ったものは石が深みのある紫色だったはずだ。手の中にあるそれは緑とも青ともとれる色で自分のものではないことが分かる。

何より、仕事用の耳飾りなので店にある自分の棚の中に置いてきたのだ。先輩たちもそうしていると勧められたから目の前で外したのを覚えていた。

「これ、誰のだろう。」

セドニーの声は賑やかな人々の活気の中に消されていく。念のため周りを見ても探し物をしている人はいなかった。

「…持ち主を占ってみようかな。」

なんとなくそう決めて手の中の耳飾りを握りしめる。そのままセドニーは自分の家へと歩き出した。

とはいえ、だ。

夕食も食べ終え、歯を磨いて気持ちを落ち着けた今でもセドニーは悩んでいた。
本当に占うべきかどうか、水晶玉の横においた耳飾りを睨んでは天を仰ぐ行動を何回繰り返しただろう。

「うーん…。」

何となくだが魔法屋で使っている自分の耳飾りの様に特別なもののようで躊躇ってしまっているのが現状だった。近くの市場で売られているものとは違う、少し複雑な模様に金属の質が一般向けとは違う気がしているのだ。

だとすれば猶更持ち主はこの存在を探しているかもしれない、でもとんでもない人物が持ち主だったらどうしようとセドニーは躊躇していた。

「占うかやめた方がいいか…うーん。」

腕を組んで唸ること十数分、ほぼ気持ちは固まっているけど決定的な、何か背中を押してくれる理由が欲しい。
そんな時ふと昨日この水晶を渡された時の出来事を思い出した。

ラリマが言っていたのだ。

「一応初心者用に保護はかけてあるの。魔女の禁忌を侵さないように…干渉してはいけないものには触れられない保護よ。言っちゃえば練習用ね。」

練習用だというこの水晶玉は万能ではないと言っていた。危ない橋を渡れないようになっているのだと。
魔女見習いの練習用として作られたこの水晶玉は過去に何人もの先輩がお世話になったものだとも教えられた。

「…ダメなら見えない筈よね。」

きっと水晶玉が止めてくれだろう、そう願いをかけてセドニーは挑戦することに決めたのだ。
両手を水晶にかざして願いを唱える。

「教えて水晶。持ち主は誰なの?」

自分の中にある魔力を手のひらから水晶に注いでいく、その作業は深呼吸にも似ていた。呼吸が震えているのを感じるがここで怯むわけにはいかない。

やがてセドニーに応じた水晶は自身の中に霧のような靄を生み出し彼女の意識の中に答えを送った。
セドニーの脳裏には前回の様に景色が浮かんでくる。

前回の様に、いや、前回と同様と言った方が正しかった。
市場の様子や賑わい方まで同じだとセドニーには思えたのだ。

次第に景色は地面に近付き耳飾りが落ちてきた。