「今日からセドニーには星の部屋の補佐をしてもらうわね。」
「はい。」

昨日の立ち合いを経て、セドニーは占いの部屋である星の部屋の補佐を任されることになった。仕事内容は主に占い客の案内と占い師の割り当て、そして占い前後の接客を行う。

占い前は緊張している客を待合室でもてなし、占い後はほとんどの客が店内の商品を求めるので案内することにしているのだ。その人が求める、その人に合った商品を見つけることが大きな役割だった。
補佐の役割をしているのは見習いを修了した魔女が多い。それなりに人数はいるが5人の占い師への客を相手にするのでかなり忙しいらしい。

特に商品を選ぶ時に時間をかける客が多いので根気も必要なのだそうだ。

「分からないことがあれば聞いてね。これを通じて会話ができるから。」

そう言って先輩見習いから渡された耳飾りに既視感を覚えた。それは昨日占いの中で自分が拾った耳飾りに似ていたからだ。

「心の中で話しかけてね。お客様に動揺や混乱が伝わらないように、平常心と余裕を心がけて。」
「はい。」

緊張が伝わったのか先輩見習いは軽くウィンクを投げて微笑むと自分の作業に戻っていった。おかげで少し解れたが手の中にある耳飾りがなかなかセドニーの心を離してくれない。

あの映像では道に落とした耳飾りを拾っていたのだ。

「落とさないように気を付けないと…っ!」

鏡の前で耳飾りを付ける、しっかりと付いたのか何回も確認してセドニーは今日の仕事に挑んでいった。



端的に言うと、疲労感がすごい一日だった。

初めての補佐役、上流階級の客も何組かいたのでとにかく粗相がないように一生懸命余裕がある自分を取り繕った。
迷惑承知で何度も耳飾りを通して先輩に質問をした。
いろんな声が答えてくれたので本当に助かったし、分からないまま対処しない自分をその都度褒めてくれたのでやりやすかった。

まず常連であろう客の顔が分からない、もちろん名前も知らないところから始まった。
今までセドニーは商品販売の方にしかいなかったのだから当然だ。店頭の常連客は頭に入っているが、別の入り口から入る占い客の事はほとんど知らなかった。

商品販売も別の部屋を用意されているのだから関わることは今まで無かったのだ。商品の説明や案内は出来ても客との相性までは分からないことが多く、これからの課題が見えてきた。
占い客への商品販売はより深い事情や要求を理解したうえで行わなければいけないという事だ。

なるほど、補佐役同士の情報共有が大事だという事がよく分かった。

「疲れたでしょ、頑張ったねー!」
「初日からいい出来だったよ。これからも何でも聞いてね。」
「ありがとうございます、本当に助かりました!」

先輩たちの労いが身に染みる。自分だけが分からないのかと不安になっていたが、意外と先輩同士でも意見を求めあったり忘れているところを助け合っていたのだ。

「今日は早く帰って休みな。ラリマさんもそう言ってたよ。」
「ありがとうございます。お先に失礼します。」

就業後のお茶をする先輩たちに挨拶をしてセドニーは店を後にした。
今日は何を食べようか。
疲れがひどくて作るのは無理そうだとセドニーは買い物をすることにした。

この時間の通りは夕飯を求める客を誘うようにいい匂いで包まれている。

「お嬢さん、今夜はこれでどうだい!?」

声をかけられた店を見てみると香ばしい匂いに包まれた串焼きが並んでいた。甘く薫るタレをたっぷり付けた分厚い肉が3つ、これに野菜を挟んだパンを付けて食べろというではないか。

逆らう理由がないセドニーは即決して購入し、ほくほくで帰路に就いた。もうお腹は大きな音を立てて鳴いている。
涎を我慢しながら少し勇み足で家へと向かった。