次の日からセドニーは魔法屋での通常業務に戻ることになっていた。

これまでと変わらない今まで通りの仕事、開店前からの大忙しに自主練が入った分忙しさが増しただろうか。

セドニーが修行を兼ねた業務を行っている間、アズロは店の屋根の上でのんびり待つという。最初暇を持て余すならと支配人であるタイガに人間の姿で雑用をさせられそうになったが、容姿が目立つという事で却下されたのだ。

店の魔女たちが仕事に身が入らなくなる、そんな事言われてもどうしていいか分からないアズロはだったら姿を変えると猫を選んだ。それはそれで魔女たちは猫アズロの可愛さに浮足立つのだが、人間の姿に比べたらマシだったらしい。

それでも使い魔として契約を持ち掛けられたときは面倒だと顔をしかめてその場から離れたのだ。いま平和に屋根の上で黒猫は日向ぼっこをしている。

「みんな色めきだっていたからね。朝から大変だったでしょう、セドニー。」
「あの人は誰だ、どういう関係だと詰め寄られました。」
「なんて答えたの?」
「うまく答えられず…恋人なのかと問われて言葉に詰まると…その、そういうことに。」

最初はげんなりした様子のセドニーも思い出しながら説明を進めていくとともに顔を真っ赤に染めていった。つまりはセドニーの恋人であるというところに落ち着いたようだ。恋人を仕事場に送ってくれた心優しい恋人、それはそれで恋に恋する魔女たちは盛り上がって大変だった。

かくいうセドニーも当事者でないなら外野で盛り上がっていただろう。セドニーもまた恋に恋する魔女だったのだから。

「ふふ。まあ…半分正解のようなものね。でも魔獣だと口にしなかったのは正しい判断よ。あなたはまだ見習い課程、心苦しいだろうけど私から独り立ちするまでは胸に秘めておいて。」
「はい。」

ラリマの言葉の意味をしっかりと理解してセドニーは深く頷いた。

「さ、今日からは厳しめに行くわよ。私の空いている時間を全部セドニーに費やして教えます。しっかりと付いてきてね。」
「はい。師匠、よろしくお願いします!」

こうしてセドニーの占い修行が本格的になった。開店前の作業が終われば時間の許す限りラリマの教えを請い、店の営業時間は仕事に励み、自分の手が空いた瞬間は自主練習をする、そしてラリマの空き時間にはまた教えを請いにいった。

そこで分かったことは魔力が高いゆえにセドニーは占いの中に入り込みすぎてしまうという事だ。入り込みすぎるといつかのように実体化して異次元に存在してしまうらしい。最悪その次元の囚われて戻れなくなってしまう可能性もあると聞かされ、セドニーは背筋を凍らせた。

魔女にとっての占いとは別の時空間を覗くことだ。
そこには理があって、勝手気ままに動いてしまうと時の精霊の怒りを買うことになるらしい。あくまで時の精霊の領域にお邪魔させてもらっているという立場をしっかりと理解することが大事なのだ。

何より占いをすることでセドニーの魔力が外に放出され、その力を周りから察知されることがあるのだ。つまりはここに魔女がいますよと知らせているようなものだった。

いくらラリマが結界を張っているとはいえ、魔法屋は魔女のあつまる場所で狙われやすいことは間違いない。セドニーが自分の力を安定させることが出来るようになるまで魔力が外に漏れることは避けられなかった。

だからアズロは常にセドニーの傍にいるように心がけていたのだ。

一日の中で何種類もの仕事を行うようになってからセドニーは疲労困憊で家路につくことが多くなった。アズロという話し相手がいなければ歩きながら寝てしまうのではないかと何度思ったことか。

何もすることがないと言っていたのにいつも待たせて申し訳ないとアズロに詫びれば、数日も経たないうちにタイガからお遣いを頼まれるようになりきっちり働かされているのだという。

「その容姿が目立つって言われていたのに問題はなかったの?」
「猫の姿でいろと言われた。魔法屋からの遣いなら猫の姿でも対応してもらえるものだな。」
「姿の注文まで…。」
「家賃代だそうだ。文句は言えない。」
「確かに言えない…。」

魔獣だというのは本当かと疑いたくなるくらい、タイガは立派な商人の考え方をしていた。あの魔法屋はラリマが作ったというが開店当初から裏方の仕事は全てタイガが行っていると聞いたときは驚いたなんてものじゃなかった。