「どうした?」
その声でさえも妙な色気を含んでいる気がして急に居心地が悪くなる。そういえばこの家には自分とアズロしかいないのだと意識してしまえばもう止められなくなってしまった。
みるみると顔を赤くしていくセドニーのその胸中をアズロは察することが出来ない。
「私の、私自身の事はもちろんこれまで以上に頑張っていく。でも、あの…つ、対の魔女とか…よく分からなくて。」
「まだ見習いなら当然だ。魔力が安定していないのも感じ取っている、セドニーが安心して見習い課程を修了できるまで俺で支えられることがあるなら力を貸すつもりだ。」
「う、うん。ありがとう…。」
力強い答えにセドニーは安心すべきなのだろう。しかし思っていた方向の意図が伝えられない思いからお礼もなんだか疑問形で終わってしまった。その態度からまだセドニーには伝えたいことがあるのだろうと判断し、アズロは再び待つ姿勢を取る。
「でも、私が気にしてるのは…そっちじゃなくて。」
「ああ。」
「は…伴侶?って言ってた方で。」
「ああ。」
何でも聞くぞと言わんばかりの構えにセドニーの緊張が増したのは伝わらないようだ。伴侶という言葉を口にするだけでもどれだけ勇気を使ったか分からないのに、全く察してもらえなかったことに軽く絶望する。
それでも口に出さないと伝わらない、何も始まらないと腹を括ったセドニーは気合の一息を吐いて顔を上げた。
「わ、私、ちゃんと恋愛をしたことがなくて!」
「…あ、ああ。」
伝えなきゃいけないという思いや緊張しているおかげで声が大きくなってしまうのは仕方がない。セドニーの勢いに押されたアズロが目を丸くしている様子はとりあえず見なかったことにしてセドニーはそのまま続けることにした。
「恋人がいたこともないし、だからどんなものか想像できなくて。アズロにどう接していいか分から…ないの…。」
最後はもう目を開けることすら出来ないくらいに感情が昂っている。でもセドニーは自分の気持ちを言えた。ラリマから諭され、アズロと話をするには自分の気持ちを伝えないといけないことに気付いたから、どうしても言わなければと必死になったのだ。
「…それは…正直に言うと俺もだ。」
いつもより少し弱く、そして寄り添うようなアズロの声にセドニーは顔を上げた。今度はアズロが視線を落としている。
「セドニーが対の魔女だという事は確信している。今はまだ不安定なセドニーを守っていかなきゃいけないことも、この先支えあって生きていくことも俺の中のでは迷うことなく決まっている。」
でも、そう零して少しアズロは言葉を探した。
「…貴女の師たちの関係を見てあういう風に信頼しあえればいいとは思うが…よく分からない。」
最後の方の言葉はセドニーに向けるようではなく、口からこぼれてしまったものだろう。自分の掌を見つめたままどこか遠い目をしたアズロは諦めかけているようにも見えた。
「不用意に触れるなと言われた手前、本当にどうしていいのか分からない。」
「あ。」
それはタイガから受けた助言の一つだとすぐに思い出してセドニーは顔を真っ赤に染める。自分の手を見つめながらぼやくのはやめて欲しい、それが余計にセドニーの羞恥心を煽るなんてアズロは絶対に気付いていないとセドニーは確信した。
最初が最初だっただけにタイガもそう言ったのだろうが、それにしてはアズロが本当に寂しそうでなんだか毒気が抜かれてしまった。
「意外…。」
「そうか?」
「とてもそんな風には見えなかったから。」
セドニーの言葉を受けて苦笑いを浮かべるアズロは年相応の少年のようで安心した。
「俺が見てきた人たちは互いに触れたり、手を取っていたからな。それこそ不用意に。」
「…そう…かもね。」
それはきっと長年寄り添ってきた人たちだからだろうと思えば曖昧な反応しかセドニーには出来ない。自分の掌から視線をセドニーに移せば、金色の双眼がセドニーをあっという間に捕らえる。
「今でも触れたいって思うのに、触れずにどうやって絆を深めるんだ?」
「…っ!?」
あまりの衝撃発言に一瞬で大量の空気を吸い込んだ声は言葉にはならなかった。セドニーは勢いよくカップを掴むと、そのまま一気に飲み干してカップを戻す。音が鳴ってしまったがそれくらいの不作法は気にしてはいけない。
「それがこれからの課題かもしれないね!分かった、うん!じゃあ、おやすみなさい!!!」
アズロの反応を待つ義理もなくセドニーは言い逃げする形で部屋の方に走っていった。
「…ああ。」
一人残されたアズロの返事は寂し気に空中に溶けたことをセドニーは知らない。
その声でさえも妙な色気を含んでいる気がして急に居心地が悪くなる。そういえばこの家には自分とアズロしかいないのだと意識してしまえばもう止められなくなってしまった。
みるみると顔を赤くしていくセドニーのその胸中をアズロは察することが出来ない。
「私の、私自身の事はもちろんこれまで以上に頑張っていく。でも、あの…つ、対の魔女とか…よく分からなくて。」
「まだ見習いなら当然だ。魔力が安定していないのも感じ取っている、セドニーが安心して見習い課程を修了できるまで俺で支えられることがあるなら力を貸すつもりだ。」
「う、うん。ありがとう…。」
力強い答えにセドニーは安心すべきなのだろう。しかし思っていた方向の意図が伝えられない思いからお礼もなんだか疑問形で終わってしまった。その態度からまだセドニーには伝えたいことがあるのだろうと判断し、アズロは再び待つ姿勢を取る。
「でも、私が気にしてるのは…そっちじゃなくて。」
「ああ。」
「は…伴侶?って言ってた方で。」
「ああ。」
何でも聞くぞと言わんばかりの構えにセドニーの緊張が増したのは伝わらないようだ。伴侶という言葉を口にするだけでもどれだけ勇気を使ったか分からないのに、全く察してもらえなかったことに軽く絶望する。
それでも口に出さないと伝わらない、何も始まらないと腹を括ったセドニーは気合の一息を吐いて顔を上げた。
「わ、私、ちゃんと恋愛をしたことがなくて!」
「…あ、ああ。」
伝えなきゃいけないという思いや緊張しているおかげで声が大きくなってしまうのは仕方がない。セドニーの勢いに押されたアズロが目を丸くしている様子はとりあえず見なかったことにしてセドニーはそのまま続けることにした。
「恋人がいたこともないし、だからどんなものか想像できなくて。アズロにどう接していいか分から…ないの…。」
最後はもう目を開けることすら出来ないくらいに感情が昂っている。でもセドニーは自分の気持ちを言えた。ラリマから諭され、アズロと話をするには自分の気持ちを伝えないといけないことに気付いたから、どうしても言わなければと必死になったのだ。
「…それは…正直に言うと俺もだ。」
いつもより少し弱く、そして寄り添うようなアズロの声にセドニーは顔を上げた。今度はアズロが視線を落としている。
「セドニーが対の魔女だという事は確信している。今はまだ不安定なセドニーを守っていかなきゃいけないことも、この先支えあって生きていくことも俺の中のでは迷うことなく決まっている。」
でも、そう零して少しアズロは言葉を探した。
「…貴女の師たちの関係を見てあういう風に信頼しあえればいいとは思うが…よく分からない。」
最後の方の言葉はセドニーに向けるようではなく、口からこぼれてしまったものだろう。自分の掌を見つめたままどこか遠い目をしたアズロは諦めかけているようにも見えた。
「不用意に触れるなと言われた手前、本当にどうしていいのか分からない。」
「あ。」
それはタイガから受けた助言の一つだとすぐに思い出してセドニーは顔を真っ赤に染める。自分の手を見つめながらぼやくのはやめて欲しい、それが余計にセドニーの羞恥心を煽るなんてアズロは絶対に気付いていないとセドニーは確信した。
最初が最初だっただけにタイガもそう言ったのだろうが、それにしてはアズロが本当に寂しそうでなんだか毒気が抜かれてしまった。
「意外…。」
「そうか?」
「とてもそんな風には見えなかったから。」
セドニーの言葉を受けて苦笑いを浮かべるアズロは年相応の少年のようで安心した。
「俺が見てきた人たちは互いに触れたり、手を取っていたからな。それこそ不用意に。」
「…そう…かもね。」
それはきっと長年寄り添ってきた人たちだからだろうと思えば曖昧な反応しかセドニーには出来ない。自分の掌から視線をセドニーに移せば、金色の双眼がセドニーをあっという間に捕らえる。
「今でも触れたいって思うのに、触れずにどうやって絆を深めるんだ?」
「…っ!?」
あまりの衝撃発言に一瞬で大量の空気を吸い込んだ声は言葉にはならなかった。セドニーは勢いよくカップを掴むと、そのまま一気に飲み干してカップを戻す。音が鳴ってしまったがそれくらいの不作法は気にしてはいけない。
「それがこれからの課題かもしれないね!分かった、うん!じゃあ、おやすみなさい!!!」
アズロの反応を待つ義理もなくセドニーは言い逃げする形で部屋の方に走っていった。
「…ああ。」
一人残されたアズロの返事は寂し気に空中に溶けたことをセドニーは知らない。