「アズロも魔法を使えるのね。」
「当然だ。でも料理は出来ない…セドニーは魔法で作っていなかったな。」
「そうだね。洗い物も自分の手でやっちゃう、魔力使うのが勿体ない気がして…自主練用に温存しておきたかったから。」
「これ位じゃセドニーの魔力は減らないだろ。使えばいい。」

そう言われてそういえば自分の魔力量は多いのだという事を思い出す。身体が疲れている時は魔法で終わらせたいと思っていたから次からは楽が出来そうだ。

「そういえば私…生活魔法とかあまり使ってないかも。」
「そうなのか?」
「うん。同じアパートの仲間は皆使ってなかったから。」
「…他の魔女は魔力に余裕がなかったのかもしれないな。」

確かにそうかもしれない。同じアパートに住んでいる魔法屋の魔女たちを思い浮かべれば、見習いや見習い課程を終えていても使い魔さえ連れていない魔女ばかりだった。何よりあのアパートは魔女以外の人も住んでいるのだ、そんなに堂々と魔法を使える訳ではない。

「あそこは魔法屋みたいに魔女だけじゃないしね。」
「ここでなら思う存分に使えるだろう。ここはセドニーの師の空間内だからな。」

これ以上に魔法に関して自由な場所はないと教えられ、セドニーはまた確かにと大きく納得をした。

「そっか、教えてくれてありがとう。」
「大したことはしていない。」
「私だけだとそこまで考えられなかったよ。昨日も思ったけど、やっぱりアズロは物知りだね。」
「喜んでもらえたならそれでいい。タイガからもセドニーの過ごしやすい環境を作れと言われたからな。」
「支配人から?」

アズロの口から意外な人物の名前が出て少し驚いた。しかしアズロとタイガは魔獣同士だ、その名前が出ることもそれほど特殊じゃないかとセドニーはすぐに頷いた。

「支配人からアドバイス貰ったって昨日も言ってたね。よく話すの?」
「いや、昨日話しただけだ。」
「そうなんだ…支配人って誰かと会話をしてるイメージ無いからそれだけでビックリだな。」
「あの雰囲気だとそうかもしれないな。あとは俺に関してもう少し笑えと言われた。」
「…それ支配人が言うの?」
「はは、確かにそうだな。」

アズロが声を出して笑った。それだけの事なのになんだか胸が暖かくなってセドニーもつられて笑ってしまう。

「ふふ。支配人も師匠の前では笑ったりしてるのかな。」
「さあ。それは二人だけのものだろう。しっかり境界線は張っているがよく自分の領域に俺たちを踏み込ませてくれたなと感謝しかない。」
「魔獣は自分の領域を大事にするって師匠から聞いた。」
「自分の領域というか…自分と魔女との空間に入られるのを嫌がる感覚だな。」

自分と魔女の空間、それは普段からなのだろうかとセドニーは少し疑問を抱いた。

「でも魔法屋ではたくさん人がいるけど…。」
「そこは外だからな。俺たちのいう領域は暮らす場所、つまり寝床のことを言う。」

それはつまり家という事だろうか。自分の私的な空間でいうと確かに自分にも共感できるなとセドニーは頷く。

「誰にでも踏み込まれたくない自分だけの空間ってあるもんね。」
「ああ、特に対の魔女を持った魔獣は独占欲が強いからな。」

当然の様にアズロの口から出た言葉にセドニーは強い引っ掛かりと身体の奥から泡立つ緊張感に思考が止まった。

「端的に言うと俺たちの邪魔をするな、という事だ。」
「…っじゃ!?」

邪魔するな、その言葉に独占欲を感じてしまってセドニーは恥ずかしくなってしまう。それは恋愛小説でよく目にする台詞で、セドニーにとってはいつかは言われたい殺し文句のひとつだった時期もあったほどだ。

でもそれはあくまで小説の中の話であって。

まさか自分の師匠と勤め先の支配人の関係性にその場面を当てはめることになるとは夢にも思わなかった。身近な人に当てはめてしまうとなんと言っていいのか。

「なんか恥ずかしい…っ。」
「そうか?」

アズロにとって当然な感覚だと思うと余計に顔が赤くなるのをセドニーは感じていた。