「こんな色はどうでしょう?」

セドニーがラリマを真似て指を揺らせば壁の色はセドニーが思い浮かべていたものと同じ色に染まる。思うように出来たからか満足げにラリマの方を振り返って笑みを浮かべた。

「まあ!可愛いわね!屋根の色は赤いままかしら。」
「緑もいいかもしれません。」
「あら!可愛いわ!ねえ、窓辺に花は付けないの?」
「いいですね!ここと、ここも!壁沿いに花壇もいいですか?」
「いいわいいわ!夜には明かりが灯るようなものを置くのはどう?」
「じゃあ…アーチを作って…。」
「セドニー!あなた才能がありすぎるわ!!」

どんどんと飾られていく離れは完全にセドニーの思うがままに彩られていった。昼でも夜でも見て心が躍るような外観に魔女二人は夢中になっている。それは修行中の二人そのものの姿でセドニーは久しぶりのラリマの個人指導に喜びを隠せなかった。

楽しい、ただそれだけで作られていく離れはまるで子供のおもちゃのようだ。最初の頃は修行というよりも遊びの延長のような形でよくラリマが魔法の使い方を教えてくれていたのを思い出す。それが本当に楽しくて、ラリマのおかげでいつも明日が楽しみだった。だからセドニーは寂しい思いをすることなく前を向いて頑張ってこれたのだ。

「家だけじゃ少し寂しいわよね。湖とかあったら素敵じゃない?」
「いいですね!じゃあ…あの辺りを広くして、それから緑も欲しいから木を足して。師匠、ボートなんてどうです!?」
「乗りたいわ!」

しばらく魔女たちの盛り上がりは続き、セドニーが満足しきったところでようやく彼女たちの工作の時間は終了を迎えた。それはもう最初とは比べ物にならないほどの代物だ。

「ふー。やりきりましたね、師匠!」
「そうね。とても楽しかったわ。」
「はい!」
「ところでセドニー…貴女は見習い魔女にここまでの事が出来ると思うのかしら?」

企みが成し遂げられたという勝ちを含んだ笑顔を浮かべてラリマは視線を離れの方に向けた。
そこには最初の離れの姿からはかけ離れた、広大の土地の中にある豪邸が存在している。屋敷の傍には花壇や遊歩道、少しいくと大きな湖がありボートや桟橋があった。その奥にはセドニーが欲しがった森が存在している。

「え…これは師匠の魔法じゃ…。」
「私は初めから貴女に何もしていないわ。貴女が思い浮かべた景色を貴女の魔力で精霊の力を借りて作り出したのがこの景色よ。」
「…私が…?」

意図して作り出したわけじゃない。セドニーはてっきりラリマが自分の手の甲を叩いたことで魔法を移管させ、受け継いだものだと思っていた。だから操作だけ自分で魔力の源は師匠であるラリマのものだと思い込んでいたのだ。

「セドニーにとってこれは容易い魔法だった。…自分の力の強さを感じることが出来るでしょう?」

ここはラリマが作り出した空間の中だ。とはいえ、その中でセドニーは大きなものをたくさん作りだすことが出来た。なにより、疲れを感じていない自分に驚きが隠せない。

「お店にいる時は接客もあるしね、肉体労働もあるから疲れを感じるだろうけど魔力はそうではなかったという事よ。」
「…はい。」
「セドニー、まずは自覚なさい。貴女の力の強さを、そして今の自分が見習いだという危うさを。」

恐怖や不安、いろんな感情が混ざりあってセドニーはまたその身を固くしてしまった。自分に向けられる言葉がすべて強い衝撃のように感じる。それと同時にその衝撃から守る術を、盾を自分が持っていないことに恐怖を感じた。

「大丈夫、私がちゃんと教えてあげる。だから貴女は一人で抱え込まずにちゃんと手を伸ばして助けを求めるの。」
「師匠…。」
「そうよ、私は貴女の師匠なんだから。」

ラリマの言葉がセドニーの心の奥の弱い部分に優しさを与えてくれる。

「私が通ってきた道をセドニーも通るだけよ。道標はいつでも準備してあるわ。」

ラリマの通ってきた道を自分も辿る、それが目指していた魔女へと近づける導ならセドニーにとって希望の道になる。このまま進んでいけばラリマのように強く凛々しい魔女になれるのだろうか、そうぼんやりと思い浮かんでまずは自分の未熟さを噛みしめた。