「魔女の力を使うときは精霊の力を共鳴させるとき。魔力が強ければ強いほど多くの精霊の力を集めることが出来る。例えば薬を調合するのなら、魔力が高いほどその効果が強いものが作れるという事よ。」
「…魔力が高いほど、強い効果のあるものが作れる。」
「そう。つまり魔力が強い貴女は…人を一瞬にして殺してしまう薬も、一瞬にして不死身にする薬も作れるという事。」

あまりの強い言葉にセドニーは顔を真っ青にして身を固くした。

「貴女は過去に干渉できるだけの力がある。過去の出来事を変えて歴史を狂わすことだって出来るという事よ。」

セドニーの脳裏には昨日体験したばかりの出来事が浮かんだ。占いを通して出会った自分。それは亡霊ではなく実体の様にハッキリと今ではない違う次元の自分が存在したのだ。まるで自分が偽物にでもなったかのような気持ちにさえ、それは本当に恐ろしい感覚だった。

「あの時は彼があなたたちの間に立ったわね。」

そう言われてあの時の出来事を鮮明に思い出す。確かにアズロは二人のセドニーの間に立ち、それぞれに触れていた。

「とても危険な行為だったけど…彼が触れたことで暴走せずに済んだと言っても過言じゃないわ。」
「え?」
「同じ空間に違う次元の同じ存在が共存している…これは理としてあり得ない事よ。そしてお互いに動揺していた。もし魔力が暴走したらどうなっていたか…。」

あの時彼がいたことでパニックは避けられたでしょう?と困ったように笑うラリマにセドニーは動揺した。だってあの時は誰もそんな様子を見せてはいなかったのに。少し驚いたという程度で取り乱すものは誰もいなかった。

しかしそれはセドニーを混乱させないための皆の努力だったというのだ。

「そんなに危ない状況だったんですか…?」
「うーん、そうね。もし暴走すれば貴女も無事では済まないし…もちろん周りの人もそうよね。この力を悪用する人が現れたらとても危険だわ。」
「…はい。」
「ねえ、セドニー。あの離れの屋根飾りに色を付けようと思うのだけどどうかしら。」
「はい?」

急に話題が変わってセドニーは今度こそ混乱した。しかしそんなセドニーをよそにラリマは視線の先にある離れの屋根飾りに思いを馳せている。

「急いで作ったからあまり拘れなくて…何色がいいと思う?」
「え、えと…。」
「外観も変えてしまいましょう。何色が好き?ほら、いつしかセドニーが言っていたじゃない。大好きな物語の表紙の家、こんな家に憧れるって。」
「師匠…いつの話ですか。」
「あなたがもう少し小さかった頃の話ね。ふふ、壁は確か白だったかしら。」

ラリマが指先を離れに向けて少し揺らせば壁の色が一瞬にして白色に変化した。

「わあ…。」
「屋根は?赤?」

するとまた同じようにラリマの言葉通りに変わっていく。

「…ちょっと真っ白だと眩しいわね。」
「そうですね。」

太陽の光を反射してしまう白色の壁は瞬く間に二人の目を強く刺激したようだ。ここは何の障害もなく太陽の光を浴びる場所、絵本のあの家は森の中の家だからちょうどよかったのだろうか。

「もういっそ黒にしちゃう?」
「うっ…なんかすごい圧迫がありますね。」
「赤はどうかしら?」
「師匠…黒と同じくらい強いです。」
「えー?じゃあ白に戻しちゃおうかしら。可愛らしい外観がいいわよね?セドニー。」
「そうですね…白よりも少し黄色味を入れた方が可愛いかもしれないです。」
「難しいわ。例えばどんな感じ?セドニーに譲るからやってみて?」

そういってラリマはさっきまで揺らしていた指でセドニーの右手の甲を弾いた。