「精霊たちが?」
「ええ。普段から貴女に力を貸す精霊たちは貴女の力の強さを誰よりも感じている筈。何より私にセドニーの事を知らせたのは他ならない精霊たちだもの。」

その言葉にセドニーはラリマが自分を尋ねてきた日の事を思い出した。それは偶然の様に、それでいて確信的にセドニーを保護する目的でラリマは精霊たちに導かれてきたのだ。

「見習いというまだ未熟な貴女を狙うことは簡単だし、たとえ見習いが修了していたとしても何の後ろ盾のない貴女を囲うことは容易いわ。常に私が貴女を守ることは難しいしね。」
「だから…。」
「そう、彼を呼び寄せたのよ。おそらく彼もまた、一人で歩き始めたばかりなのかもしれないわね。タイガが言うには対を持たない魔獣は群れで暮らしているらしいから。ある程度の成長を認められたら独り立ちしたり…そのまま群れを守るために残る事もあるらしいわ。」

彼は一人でいるのでしょうとラリマに問われてもセドニーは多分と曖昧に答えることしかできなかった。まだ出会ったばかり、お互いのこれまでを話すという事はまだしていないのだ。セドニーがアズロについて知っていることは読書が好きだという事、そして料理の腕はそこまでだという事。

私たちはまだ始まったばかりだと互いに認識したばかりなのだ。

「お互いをよく知るために会話をしなさい。これからどうするのかセドニーが決めるべきだとは思うけど…貴女の身を守ることを条件に入れたら彼は必要な存在だと思う。」
「身を守る…あの、私は自分の力の大きさの実感がなくて。狙われるというのも何となくしか分からないんです。」

アズロとの話の中で少しは理解したがやはり具体的にはハッキリしないのだ。周りからそう言われても実際に目に見えて誰かと比較した訳ではない。ただこれだけの人が案じている以上は気をつけなきゃと心構えをしたところだ。

ただ、どうやって周囲を警戒していいのかが掴めなかった。

「そうね…。ではセドニー、魔法屋の仕事を思い出してみましょう。私たちは何を扱っているかしら。」
「…お守りや…薬…属性付加のある飾りや小物を売っています。あと星の部屋では占いも。」
「そうね。お守りも薬も属性付加も基本は同じ、目的別のまじないをかけている物よ。恋愛成就だったり回復祈願だったり、それは全て精霊の力を借りて魔力のない人間でも影響を与えられるように私達魔女が作り出した物よ。」

思い出して、人によって調合する物は担当が決められていたはず。そうラリマに促されるとセドニーの中で商品価値と担当魔女が繋がっていくのが分かった。気休め程度の商品は新人が、物体に属性付加をするのは既に見習いを終えた使い魔や精霊を仕えさせた魔女が担当しているのだ。

「占いはより強い力の魔女しか行えない。それは時の精霊に共鳴出来るほどの魔力がないと弾かれてしまうから。…今まで占いを諦めた魔女も少なくはないわ。たとえ使い魔に選ばれた魔女でさえも難しいことはよくあることなのよ。」
「…はい。」

その言葉に素直に頷くのは実際にそういう魔女が魔法屋にも何人かいるからだ。しかし彼女たちは別の道で能力を発揮しているので占いが出来ないからと蔑まれることはなかった。その技術は占い魔女をも超えることはままあるのだ。

セドニーはそんな先輩魔女たちを尊敬していたし頼りにもしていた。何度も調合の指導をしてもらったり研究の手伝いをさせてもらったこともある。彼女たちはまるで学者のような存在だと誰かが言っていたのを思い出した。