「まさか自分が星の部屋に入れるなんて…。」
その日の夜、自室のベッドで寝ころびながらセドニーは今日を振り返った。
呟いた言葉通り、まさか自分が星の部屋に入れるとは思わなかったのだ。
魔法屋において星の部屋とは占いをする部屋の事である。
その部屋は特別なものしか入ることができない。占いをするもの、補佐するもの、そして客だけだ。
客としてならある程度の者は入ることができるだろう、しかし魔法屋の人間としては限られた者しか入ることができない。
魔法屋には5人の魔女がいる。
星の部屋には魔女それぞれの空間があり、客は目的の魔女の空間内で占いをしてもらうのだ。
今日セドニーはラリマの空間内で姿隠しの魔法具を身に着けて立ち会った。客からはセドニーの存在は分からない。客の個人情報を他言しない制約魔法をかけてからセドニーは一日中ラリマの仕事を間近で見学することができた。
実際に師匠の占いを間近で見られるのは今日が最初で最後になる。
この一日で師匠の仕事を目に焼き付け、あとはひたすら占いの精度を上げるために練習を重ねるだけだった。
「頑張ろう。早く一人前にならなくちゃ。」
ラリマに魔法の才能を見出され魔法屋に来たのはもう何年も前の話だ。
頑張ることしか取り柄のないセドニーを引き取り、弟子として迎え入れ丁寧に指導してくれた。時には親代わりのように色々と手助けしてくれていたのだ。
ずっと師匠であるラリマには世話になってきた。この恩を返すのはやはり一人前の魔女になることだとセドニーは思っている。一日でも早く、立派な魔女に。
ラリマのように。
セドニーは気を引き締めると机の上に置いてある大きな丸い水晶玉を見つめた。
これはラリマから預かったものだ。
「この水晶を使うといいわ。昔は私もこれで練習していたのよ。」
ラリマも使ったことがある水晶玉、それだけで妙な緊張感を持ってしまうのは何故だろう。そして師匠のいう昔とは何時頃なのかも気になったが今はそれを置いておこう。
とりあえず気持ちが決まるまでと水晶玉の前に座ってみる。そこに映ったセドニーはよくある深い茶色の髪で緑色の瞳をしていた。
「う…っ師匠と随分な差が…。」
誰がどう見ても100人見たら全員が文句なしに美しいと讃える顔も、銀色のサラサラな長い髪の毛も眩いオーラも欠片としてない。セドニーの茶色の髪はふわふわとゆるいカールがかかっていて、大きい目が印象的で可愛らしいと言ってもらえるものの足元にも及ばなかった。魔力だって雲泥の差がある。
「あんな立派な人が使った物なのに…なんか次に使うのが私で申し訳ない…。」
でも頑張るから!そう言い切るとセドニーは水晶玉の真正面に座って手をかざした。
「私はセドニー…これよりあなたの主になる。」
セドニーの声に反応して水晶玉は淡く光を放つ。その光はゆっくりとセドニーの手に触れて水晶とセドニーを繋ぐ道となった。
そして解けるように光は消えた。
契約が成立した、セドニーはそう感じて安堵に息を吐く。
「ありがとうね。」
まずはこれで最初の関門が開かれたことになる。次はとセドニーは記憶の中の手順書をめくった。
「明日の天気でも占ってみようかな。」
今度は両手を水晶玉にかざして心の中で念じてみる。すると水晶の中で何か煙のようなものが揺らいだ、その瞬間セドニーの頭の中にある情景が浮かんできた。
行き交う人々、これは見覚えのある魔法屋近くの市場のようだった。笑顔で接客をする八百屋のおじさん、買い物を楽しむ女性客、連れだって歩く夫婦の姿もある。そんな街中を黒い猫が優雅にすり抜けていった。
そして誰かの落とし物であろう耳飾りを拾う自分の腕が見える。
「えっ!?」
不意に声が出て占いが終わった。
「…何だったの?」
よく分からない疑問が浮かぶ。初めての占い、これが成功なのか失敗なのか良くわからなかったが、一つだけ自分を労う為に正解を見つけたかった。
「…晴れってこと、かな?」
空は青くて、誰も傘をさしていなかったのだから。
その日の夜、自室のベッドで寝ころびながらセドニーは今日を振り返った。
呟いた言葉通り、まさか自分が星の部屋に入れるとは思わなかったのだ。
魔法屋において星の部屋とは占いをする部屋の事である。
その部屋は特別なものしか入ることができない。占いをするもの、補佐するもの、そして客だけだ。
客としてならある程度の者は入ることができるだろう、しかし魔法屋の人間としては限られた者しか入ることができない。
魔法屋には5人の魔女がいる。
星の部屋には魔女それぞれの空間があり、客は目的の魔女の空間内で占いをしてもらうのだ。
今日セドニーはラリマの空間内で姿隠しの魔法具を身に着けて立ち会った。客からはセドニーの存在は分からない。客の個人情報を他言しない制約魔法をかけてからセドニーは一日中ラリマの仕事を間近で見学することができた。
実際に師匠の占いを間近で見られるのは今日が最初で最後になる。
この一日で師匠の仕事を目に焼き付け、あとはひたすら占いの精度を上げるために練習を重ねるだけだった。
「頑張ろう。早く一人前にならなくちゃ。」
ラリマに魔法の才能を見出され魔法屋に来たのはもう何年も前の話だ。
頑張ることしか取り柄のないセドニーを引き取り、弟子として迎え入れ丁寧に指導してくれた。時には親代わりのように色々と手助けしてくれていたのだ。
ずっと師匠であるラリマには世話になってきた。この恩を返すのはやはり一人前の魔女になることだとセドニーは思っている。一日でも早く、立派な魔女に。
ラリマのように。
セドニーは気を引き締めると机の上に置いてある大きな丸い水晶玉を見つめた。
これはラリマから預かったものだ。
「この水晶を使うといいわ。昔は私もこれで練習していたのよ。」
ラリマも使ったことがある水晶玉、それだけで妙な緊張感を持ってしまうのは何故だろう。そして師匠のいう昔とは何時頃なのかも気になったが今はそれを置いておこう。
とりあえず気持ちが決まるまでと水晶玉の前に座ってみる。そこに映ったセドニーはよくある深い茶色の髪で緑色の瞳をしていた。
「う…っ師匠と随分な差が…。」
誰がどう見ても100人見たら全員が文句なしに美しいと讃える顔も、銀色のサラサラな長い髪の毛も眩いオーラも欠片としてない。セドニーの茶色の髪はふわふわとゆるいカールがかかっていて、大きい目が印象的で可愛らしいと言ってもらえるものの足元にも及ばなかった。魔力だって雲泥の差がある。
「あんな立派な人が使った物なのに…なんか次に使うのが私で申し訳ない…。」
でも頑張るから!そう言い切るとセドニーは水晶玉の真正面に座って手をかざした。
「私はセドニー…これよりあなたの主になる。」
セドニーの声に反応して水晶玉は淡く光を放つ。その光はゆっくりとセドニーの手に触れて水晶とセドニーを繋ぐ道となった。
そして解けるように光は消えた。
契約が成立した、セドニーはそう感じて安堵に息を吐く。
「ありがとうね。」
まずはこれで最初の関門が開かれたことになる。次はとセドニーは記憶の中の手順書をめくった。
「明日の天気でも占ってみようかな。」
今度は両手を水晶玉にかざして心の中で念じてみる。すると水晶の中で何か煙のようなものが揺らいだ、その瞬間セドニーの頭の中にある情景が浮かんできた。
行き交う人々、これは見覚えのある魔法屋近くの市場のようだった。笑顔で接客をする八百屋のおじさん、買い物を楽しむ女性客、連れだって歩く夫婦の姿もある。そんな街中を黒い猫が優雅にすり抜けていった。
そして誰かの落とし物であろう耳飾りを拾う自分の腕が見える。
「えっ!?」
不意に声が出て占いが終わった。
「…何だったの?」
よく分からない疑問が浮かぶ。初めての占い、これが成功なのか失敗なのか良くわからなかったが、一つだけ自分を労う為に正解を見つけたかった。
「…晴れってこと、かな?」
空は青くて、誰も傘をさしていなかったのだから。