「魔獣の事だけど、魔女の中に階級があることは覚えているかしら。」
「はい。」

絶対数が少ないとはいえ魔女は歴史がある種族だ。生まれながらにしてそのように育つものもいれば、遠い先祖からの血が蘇る先祖返りという者もいる。どちらにしても生まれや育ちで階級が決まるものではなかった。

全ては保有する魔力の量で決まっている。
目に見えてそれが分かるのは何を仕えさせているか、だ。

本来人間は世界の中の一部だった。人間から生まれた魔女とは魔力があることで自然の理に触れることが出来る、自然界の中では歪な存在だとされていた。この歪な存在は精霊たちと関わることで世界の中の存在として認められている。

一番尊いとされているのは魔獣を共にする魔女、次いで使い魔、そして精霊、何も仕えさせることが出来ない魔女もいる。精霊は気に入った魔女の傍を離れないこともあるが、契約するのは珍しい事だった。しかし基本的に自由を好むため下級の精霊しか契約を結べない。使い魔の方が高位になるのは実体があるからだとされていた。

現に魔女は精霊に認められ場所場所で力を貸してもらいながら力を使う。精霊を仕えさせるというのは常に同じ精霊が自分の傍にいるという事だった。そして精霊は普通の人間には見ることが出来ない。

使い魔は実体がある為に人の目にも触れる、そして彼らは小型の動物であることが多かった。魔力を持った小型動物が使い魔と一般的にはされていた。魔獣とは大きな個体を持つ魔力を持った動物、そして個体の大きさなだけ魔力があることから彼らの力は大きかった。

自らの姿を変えることも出来る。魔獣の中でも高位とされているものの一種が黒ヒョウだった。黒鹿もまた高貴な存在とされていた。

そして魔獣たちは自分の魔力量にふさわしいだけの力を持つ魔女と共に生きることが多かった。それは互いの魔力を共鳴させることによって安定をさせる為でもあるのだ。その心地よさを知ってしまうと離れがたくなるのだという。

セドニーの知識量を確認しながらラリマはゆっくりと魔女や魔獣について教えた。

「アズロは…対の魔女とは生涯の伴侶だと言っていました。」
「そうね。魔獣と魔女の関係はほぼ婚姻に近いと言われているの。もちろん全ての魔獣や魔女がお互いの相手を見つけられるとは限らないわ。相手が拒絶することもあるし、興味すら持たない人もいたでしょうね。でも少なからず求めているなら…見つけたいと必死になる時もあるのではないかしら。」

あくまでそれぞれの関係性と置かれている状況があるという事をラリマはセドニーに伝えたかった。聞けばラリマの知り合いにも魔獣との関りを断った魔女もいるという。彼女の場合は既に自分の伴侶を見つけており、魔獣との関係は受け入れられなかったらしい。

「いろんな人がいるわね。」
「そうですね。」
「でもセドニーの場合はまだ見習いの段階だし…始めたばかりの占いで対の魔獣を見つけてしまったくらいだから余程強い力を秘めているのだと思うわ。」
「…あの、それはどうしてなんでしょうか?見つけようと思っていた訳じゃないのに。」
「ええ。でも彼の方が求めていたのかもしれないわね。」

そう言われてアズロの言葉を思い出した。彼は確か魔女を探す旅をしていたと言っていた。セドニーはそんなアズロの思いに引っ張られる形で占いをしたのだろうかと疑問を口にする。

「そうかもしれないわね。」

ふふ、といつものようにふわりと微笑んでラリマは続けて静かに口を閉ざした。

やわらかい風が通り抜けて葉のこすれる音や小鳥のさえずりが二人の世界をほんの少しだけ色づけていく。戸惑いながらもこの沈黙には何か意味があるような気がしてセドニーは自分から口を開こうとはせず、ラリマからの言葉を待ち続けた。

「セドニー。きっとこの先の貴女を守るために…精霊たちが貴女に力を貸したのだと…私はそう思うわ。」