「あ…アズロ。部屋割りの話なんだけど。」
しばらくして屋敷の中に入ってきたアズロを見つけ、セドニーはおそるおそる声をかけた。どれだけアズロは外にいたのか、セドニーは既に軽く離れの中を見て回った後だ。
机の上にあった師匠からの置手紙にはこの離れがセドニーとアズロ、二人用の家だとしてあった。一つ屋根の下の同居、幸いにもアパートとは比べ物にならないくらい広い家だが二人だけというのがどうにも擽ったい。
「個室が2つあって、どっちを使うか決めたくて。」
「どちらでも。セドニーが好きに選んでいい。」
「え、でも…。」
「寝るだけの部屋に拘りはない。」
それは本心からなのかセドニーには判断できかねた。しかし少しも表情を変えないアズロは遠慮しているような素振りもない。セドニーが個室に続く廊下を見るとアズロも同じように見つめた。
「見に行った方がいいか?」
「あ、うん。一応。」
何も見ずに判断するのはどうかと思っていたセドニーは先に部屋の前まで歩いていく。二つの部屋の扉を開けて中を見るようにアズロを促した。開けられた扉から中を覗き一通り確認するがやはりアズロの意見は変わりそうにない。
「どっちでもいい。」
「…じゃあ奥の部屋を貰ってもいい?」
奥の部屋の方が少し大きめであることもそうだが、その部屋から見える庭の景色がセドニーの心を捉えてしまったのだ。それに日当たりもよさそうだった。
申し訳ない気持ちを抱えて窺うとアズロは感情の読めない表情をふわりと緩めて微笑んだ。
「セドニーのしたいように。」
本当は最初から奥の部屋が良かったのだろう。でも押し通すのも申し訳なくてアズロに尋ねたのだという事が手に取るように分かり、その心理が可愛らしく思えた。
「それに奥を使ってくれた方が俺としても助かる。守りやすい。」
「え、そうなの?」
「荷物を運ぼう。奥の部屋に持っていく。」
セドニーの疑問に眉を上げて答えると、次のやるべき事を見つけたアズロは運んできたセドニーの荷物を軽々と抱えて奥へと進んでいった。ありがとうと小さな声でお礼を言ったセドニーの声は聞き逃さない。
嫌がられている気配は感じなかった。
そう心の内で安堵してまともにセドニーの顔を見ることもなく通り過ぎる。タイガからの助言は簡単なものだった。セドニーの言葉をしっかり聞く、言葉に詰まっている時こそ次に来る声を待てと言われたのだ。
そのおかげで部屋割りは難なく終えることが出来たとアズロは静かにタイガに感謝する。助言がなければ好きな方を選べというだけで終わっていただろう。まだ遠慮があるうちは自分の意見を通すことが難しい人間が多いとも知らされた。
成程と納得してアズロはしっかり自分の胸に刻んだのだ。セドニーは自分の意見をしっかり持っている、躊躇なく声を発せられる関係に慣れるまではアズロが待つことも多いだろうと。
「ありがとう、これで全部だよ。」
「分かった。」
セドニーの部屋から持ってきた荷物全てを運び終わると、セドニーは今日ずっと気になっていたことをアズロに尋ねることにした。
「アズロの荷物はないの?」
「無い。旅の途中だったしな。」
「旅?」
「ああ、魔女を見つける旅だ。」
それはすなわち目的を果たしたという事になるのではないか、そんな事が浮かんで反射的にセドニーは顔を赤くする。見ているだけで何を考えているかが分かりアズロは思わず吹き出して笑ってしまった。
「そうだ、タイガからも釘を刺されたから伝えておく。」
「え、支配人から?」
ああ、そう答えた後一息置いてアズロは口を開く。
「セドニーが見習い課程を終えるまで不用意に触れない。」
両手を上げ、優しい笑みと共に告げられた言葉はどうにも浸透率がよくない。しかし時間が経つにつれて嚙み砕いて理解をしていったセドニーはこれ以上にないくらいに顔を真っ赤に染めた。
しばらくして屋敷の中に入ってきたアズロを見つけ、セドニーはおそるおそる声をかけた。どれだけアズロは外にいたのか、セドニーは既に軽く離れの中を見て回った後だ。
机の上にあった師匠からの置手紙にはこの離れがセドニーとアズロ、二人用の家だとしてあった。一つ屋根の下の同居、幸いにもアパートとは比べ物にならないくらい広い家だが二人だけというのがどうにも擽ったい。
「個室が2つあって、どっちを使うか決めたくて。」
「どちらでも。セドニーが好きに選んでいい。」
「え、でも…。」
「寝るだけの部屋に拘りはない。」
それは本心からなのかセドニーには判断できかねた。しかし少しも表情を変えないアズロは遠慮しているような素振りもない。セドニーが個室に続く廊下を見るとアズロも同じように見つめた。
「見に行った方がいいか?」
「あ、うん。一応。」
何も見ずに判断するのはどうかと思っていたセドニーは先に部屋の前まで歩いていく。二つの部屋の扉を開けて中を見るようにアズロを促した。開けられた扉から中を覗き一通り確認するがやはりアズロの意見は変わりそうにない。
「どっちでもいい。」
「…じゃあ奥の部屋を貰ってもいい?」
奥の部屋の方が少し大きめであることもそうだが、その部屋から見える庭の景色がセドニーの心を捉えてしまったのだ。それに日当たりもよさそうだった。
申し訳ない気持ちを抱えて窺うとアズロは感情の読めない表情をふわりと緩めて微笑んだ。
「セドニーのしたいように。」
本当は最初から奥の部屋が良かったのだろう。でも押し通すのも申し訳なくてアズロに尋ねたのだという事が手に取るように分かり、その心理が可愛らしく思えた。
「それに奥を使ってくれた方が俺としても助かる。守りやすい。」
「え、そうなの?」
「荷物を運ぼう。奥の部屋に持っていく。」
セドニーの疑問に眉を上げて答えると、次のやるべき事を見つけたアズロは運んできたセドニーの荷物を軽々と抱えて奥へと進んでいった。ありがとうと小さな声でお礼を言ったセドニーの声は聞き逃さない。
嫌がられている気配は感じなかった。
そう心の内で安堵してまともにセドニーの顔を見ることもなく通り過ぎる。タイガからの助言は簡単なものだった。セドニーの言葉をしっかり聞く、言葉に詰まっている時こそ次に来る声を待てと言われたのだ。
そのおかげで部屋割りは難なく終えることが出来たとアズロは静かにタイガに感謝する。助言がなければ好きな方を選べというだけで終わっていただろう。まだ遠慮があるうちは自分の意見を通すことが難しい人間が多いとも知らされた。
成程と納得してアズロはしっかり自分の胸に刻んだのだ。セドニーは自分の意見をしっかり持っている、躊躇なく声を発せられる関係に慣れるまではアズロが待つことも多いだろうと。
「ありがとう、これで全部だよ。」
「分かった。」
セドニーの部屋から持ってきた荷物全てを運び終わると、セドニーは今日ずっと気になっていたことをアズロに尋ねることにした。
「アズロの荷物はないの?」
「無い。旅の途中だったしな。」
「旅?」
「ああ、魔女を見つける旅だ。」
それはすなわち目的を果たしたという事になるのではないか、そんな事が浮かんで反射的にセドニーは顔を赤くする。見ているだけで何を考えているかが分かりアズロは思わず吹き出して笑ってしまった。
「そうだ、タイガからも釘を刺されたから伝えておく。」
「え、支配人から?」
ああ、そう答えた後一息置いてアズロは口を開く。
「セドニーが見習い課程を終えるまで不用意に触れない。」
両手を上げ、優しい笑みと共に告げられた言葉はどうにも浸透率がよくない。しかし時間が経つにつれて嚙み砕いて理解をしていったセドニーはこれ以上にないくらいに顔を真っ赤に染めた。