ラリマの屋敷で二人を出迎えたのはタイガだった。疑問が浮かんだが、そういえばタイガはラリマの対の魔獣だったと思い出す。
「今日からよろしくお願いします。」
「ああ。二人の部屋は離れに用意してある。」
タイガの言葉の通り、本邸の隣にある離れと呼ばれる建物に案内された。ラリマの屋敷には引き取られて数日いただけで、ここに来たのは何年かぶりだ。
セドニーはすぐにラリマが用意した今のアパートに一人暮らしをするようになった。そこは魔法屋の店員が何人か住む場所で、お互いに助け合いながら暮らすことを覚えるように言われたのだ。
「…大きい。」
ぼんやりとは覚えていたものの、ラリマがとんだ豪邸に住んでいたことに今更ながら衝撃を受けた。離れまであるなんて信じられない。
「離れなんてあるんですね。」
「さっき作ったばかりだ。ここは魔法で作り出した空間だからな。」
タイガからの衝撃発言にセドニーは目と口を遠慮なく大きく開いた。そんなことはお構いなくタイガは離れの扉を開ける。その扉もかなり大きなものなのだが、ひとつひとつ驚いていたらきりがない気がしてセドニーは歯を食いしばった。
「食材も置いてある。あとは好きにするように。」
「あ、あの…師匠は。」
「明日休みをとって話をしたいと言っていた。」
「分かりました。ありがとうございます支配人。」
いままで関わることがあまり無かった人物との会話は緊張する。セドニーは身体に力が入ったまま頭を下げて屋敷の中に入っていった。きょろきょろしながら足を進めていくセドニーを見送るとタイガがまだ動こうとしないアズロに目を向けて口を開く。
「半年もかけずに見習いを終わらせると言っていた。その間はここにいるといい。」
「…感謝します。」
「そこまで畏まらなくてもいい。ラリマはああ言ったが…本来であれば自分よりも高位である黒ヒョウに頭を下げるのは私だ。」
「貴方は彼女の師である方の伴侶だ。それに俺はまだ…彼女に受け入れてもらえていない半人前だ。」
年齢もアズロの方がかなり下だろうという事も踏まえてタイガへの姿勢を崩すつもりはなかった。なにより最後に消えそうな声で呟いた本音がアズロを支配していたのだ。
「…ハッキリと拒まれたのか。」
「…近づくなと。魔女と魔獣の関係を知らなかったようなので、生涯の伴侶だと告げたら…色々あって最終的にはそう言われました。」
「それは…重いな。」
その言葉がアズロに突き刺さって食い込んでいく。しかしセドニーから出そうにない言葉に違和感があったタイガは、遠い昔にラリマから言われた事があるなとふと思い出した。口元に手を当てながらどこかに追いやってしまった記憶を辿る。
なんとなくだが、タイガの中でまだ幼いこの黒ヒョウに手を差し伸べたいという感情が生まれたのだ。自分の中では珍しい、父性のような気持になんだか愉快な気分になった。
「本心からではないと思うが…そうだな。では助言をしてやろう。」
それにラリマの弟子であるセドニーにはなるべく円満に事を成して、ラリマの負担になるようなことは避けたいという思いもあった。だからだろう、いつにない積極的な助言がこの先のアズロの活路となったのだ。
「健闘を祈る。」
大人の余裕を前面に押し出してタイガは機嫌よく魔法屋の方へと戻っていった。アズロにとって本で憧れた世界、対の存在となった魔獣と魔女の関係。それを成し遂げて互いに支えあいながら生きるタイガが素直に羨ましかった。
タイガ以外にも対の魔女と生きる魔獣を見たことがあるが、やはり彼らは長い時間を共にしているからか魔力も関係性も安定している。自分はまだ始まったばかりだと気を引き締めてアズロもまた離れの中に入っていった。
「今日からよろしくお願いします。」
「ああ。二人の部屋は離れに用意してある。」
タイガの言葉の通り、本邸の隣にある離れと呼ばれる建物に案内された。ラリマの屋敷には引き取られて数日いただけで、ここに来たのは何年かぶりだ。
セドニーはすぐにラリマが用意した今のアパートに一人暮らしをするようになった。そこは魔法屋の店員が何人か住む場所で、お互いに助け合いながら暮らすことを覚えるように言われたのだ。
「…大きい。」
ぼんやりとは覚えていたものの、ラリマがとんだ豪邸に住んでいたことに今更ながら衝撃を受けた。離れまであるなんて信じられない。
「離れなんてあるんですね。」
「さっき作ったばかりだ。ここは魔法で作り出した空間だからな。」
タイガからの衝撃発言にセドニーは目と口を遠慮なく大きく開いた。そんなことはお構いなくタイガは離れの扉を開ける。その扉もかなり大きなものなのだが、ひとつひとつ驚いていたらきりがない気がしてセドニーは歯を食いしばった。
「食材も置いてある。あとは好きにするように。」
「あ、あの…師匠は。」
「明日休みをとって話をしたいと言っていた。」
「分かりました。ありがとうございます支配人。」
いままで関わることがあまり無かった人物との会話は緊張する。セドニーは身体に力が入ったまま頭を下げて屋敷の中に入っていった。きょろきょろしながら足を進めていくセドニーを見送るとタイガがまだ動こうとしないアズロに目を向けて口を開く。
「半年もかけずに見習いを終わらせると言っていた。その間はここにいるといい。」
「…感謝します。」
「そこまで畏まらなくてもいい。ラリマはああ言ったが…本来であれば自分よりも高位である黒ヒョウに頭を下げるのは私だ。」
「貴方は彼女の師である方の伴侶だ。それに俺はまだ…彼女に受け入れてもらえていない半人前だ。」
年齢もアズロの方がかなり下だろうという事も踏まえてタイガへの姿勢を崩すつもりはなかった。なにより最後に消えそうな声で呟いた本音がアズロを支配していたのだ。
「…ハッキリと拒まれたのか。」
「…近づくなと。魔女と魔獣の関係を知らなかったようなので、生涯の伴侶だと告げたら…色々あって最終的にはそう言われました。」
「それは…重いな。」
その言葉がアズロに突き刺さって食い込んでいく。しかしセドニーから出そうにない言葉に違和感があったタイガは、遠い昔にラリマから言われた事があるなとふと思い出した。口元に手を当てながらどこかに追いやってしまった記憶を辿る。
なんとなくだが、タイガの中でまだ幼いこの黒ヒョウに手を差し伸べたいという感情が生まれたのだ。自分の中では珍しい、父性のような気持になんだか愉快な気分になった。
「本心からではないと思うが…そうだな。では助言をしてやろう。」
それにラリマの弟子であるセドニーにはなるべく円満に事を成して、ラリマの負担になるようなことは避けたいという思いもあった。だからだろう、いつにない積極的な助言がこの先のアズロの活路となったのだ。
「健闘を祈る。」
大人の余裕を前面に押し出してタイガは機嫌よく魔法屋の方へと戻っていった。アズロにとって本で憧れた世界、対の存在となった魔獣と魔女の関係。それを成し遂げて互いに支えあいながら生きるタイガが素直に羨ましかった。
タイガ以外にも対の魔女と生きる魔獣を見たことがあるが、やはり彼らは長い時間を共にしているからか魔力も関係性も安定している。自分はまだ始まったばかりだと気を引き締めてアズロもまた離れの中に入っていった。