魔女と生きる為に。その言葉にしばらく治まっていたセドニーの鼓動がまた駆け足になった。
「…アズロはそんなに対の魔女を探してたの?」
「ああ。」
「どうして?」
聞かない方が自分の為かもしれない、そんな気持ちが横切ったが好奇心が勝ってしまった。するとアズロの視線がまだセドニーの腕の中にある本へ向けられる。
「俺も…憧れたのかもしれない。」
「憧れ?」
「本を読んだことがある。魔獣と魔女のおとぎ話…二人は出会って共に苦難を乗り越えていく話だった。それがすごく胸を打った。」
たまたま手にしていた本の頁を適当にめくっても思いは遠い追憶の中だ。
「幼い頃からあった湧きだつような衝動が、この為にあるのだと思った。俺には俺の魔女がいると根拠のない確信が生まれた瞬間だ。」
そう言うとアズロは本を閉じて、セドニーの手の中にあった本も受け取った。自分から聞いたものの戸惑いを隠せないセドニーにアズロは思わず笑ってしまう。
「気にしないでくれ。」
「わ…私には…アズロみたいな確信めいたものは無くて…。」
「…少しずつ感じてくれることを願っているよ。」
アズロはセドニーの心に寄り添う言葉を送った。その声が心地よくてまたセドニーをくすぐるのだ。
「とりあえずお互いに読書好きな事は分かった。」
そう言ってまだ本棚の中にいくつかある恋愛小説を掲げて見せる。これは図書館の物かと聞かれればセドニーは顔を赤くしながら不貞腐れた様に首を横に振った。
「お互いにロマンス好きってこともね。」
「違いない。」
一人だけ揶揄われるのが嫌で巻き込んでみたが、思いの外すんなりと肯定されたのでセドニーは面白くなかった。それでも耳の奥に残る憧れという言葉が胸をくすぐり続けたままだ。
ふわふわと自分では制御しにくい混乱を保ち続ける頭の中でふと師匠ラリマとタイガの関係を思い出した。
”私たちは恋人ではないの。どちらかといえば夫婦に近いわよね。”
深い深い関係性、恋人よりもっと先の他人からは触れることが許されない深まった場所にある関係性。目の前にいるアズロはセドニーにそれを求めている。
そこまで考えてセドニーは固まった。もしや精神的な関係性以上のものが待っているのだろうか、例えば肉体的な何かが。自分の中の想像が膨らんだだけなのにセドニーはどうしようもない衝動に駆られて逃げたくなった。
「ダメ!!恥ずかしい!!」
「は?」
「あああああまり近寄らないで!!」
大声で拒否された反動で思わず顔を上げたアズロをすぐさまセドニーが両手を突き出して制した。
「…え…?」
「とにかく、引っ越します!!!」
訳が分からず呆然としていたアズロだったが、昨日の失態ととラリマからの叱責を同時に思い出し自分の行いに自信がなくなる。何か余計な事をしただろうか、よく分からないがセドニーに近寄るなと言われた事が強烈で思考が止まってしまった。
この狭い部屋に二人きりでいるという現実から逃げ出すためにセドニーは必死になって荷造りをする。
恋愛小説にハマるくらいだ、ロマンスは大好きに決まっている。突然目の前に現れた綺麗な顔つきの青年が自分を守ってくれると言ってくれ、自分の持てる全てで支えていくと言ってくれているのだ。誠実に、まっすぐに自分の目を見て、全身で自分を求めてくれている。
「恋愛小説なんてもんじゃない…。」
堪えきれず口からこぼれた言葉はアズロに拾われていないだろう。正直言うと嬉しい、段々と実感がわいてきて喜び始めている自分があさましい。まるで恋愛小説、アズロにはその資格があるだろう。でも自分には魔力しかないのでは?そこに行きついて拳を握った。
また違う不安が生まれたが、とりあえず目の前の引っ越し作業に専念することにしたのだ。
「…アズロはそんなに対の魔女を探してたの?」
「ああ。」
「どうして?」
聞かない方が自分の為かもしれない、そんな気持ちが横切ったが好奇心が勝ってしまった。するとアズロの視線がまだセドニーの腕の中にある本へ向けられる。
「俺も…憧れたのかもしれない。」
「憧れ?」
「本を読んだことがある。魔獣と魔女のおとぎ話…二人は出会って共に苦難を乗り越えていく話だった。それがすごく胸を打った。」
たまたま手にしていた本の頁を適当にめくっても思いは遠い追憶の中だ。
「幼い頃からあった湧きだつような衝動が、この為にあるのだと思った。俺には俺の魔女がいると根拠のない確信が生まれた瞬間だ。」
そう言うとアズロは本を閉じて、セドニーの手の中にあった本も受け取った。自分から聞いたものの戸惑いを隠せないセドニーにアズロは思わず笑ってしまう。
「気にしないでくれ。」
「わ…私には…アズロみたいな確信めいたものは無くて…。」
「…少しずつ感じてくれることを願っているよ。」
アズロはセドニーの心に寄り添う言葉を送った。その声が心地よくてまたセドニーをくすぐるのだ。
「とりあえずお互いに読書好きな事は分かった。」
そう言ってまだ本棚の中にいくつかある恋愛小説を掲げて見せる。これは図書館の物かと聞かれればセドニーは顔を赤くしながら不貞腐れた様に首を横に振った。
「お互いにロマンス好きってこともね。」
「違いない。」
一人だけ揶揄われるのが嫌で巻き込んでみたが、思いの外すんなりと肯定されたのでセドニーは面白くなかった。それでも耳の奥に残る憧れという言葉が胸をくすぐり続けたままだ。
ふわふわと自分では制御しにくい混乱を保ち続ける頭の中でふと師匠ラリマとタイガの関係を思い出した。
”私たちは恋人ではないの。どちらかといえば夫婦に近いわよね。”
深い深い関係性、恋人よりもっと先の他人からは触れることが許されない深まった場所にある関係性。目の前にいるアズロはセドニーにそれを求めている。
そこまで考えてセドニーは固まった。もしや精神的な関係性以上のものが待っているのだろうか、例えば肉体的な何かが。自分の中の想像が膨らんだだけなのにセドニーはどうしようもない衝動に駆られて逃げたくなった。
「ダメ!!恥ずかしい!!」
「は?」
「あああああまり近寄らないで!!」
大声で拒否された反動で思わず顔を上げたアズロをすぐさまセドニーが両手を突き出して制した。
「…え…?」
「とにかく、引っ越します!!!」
訳が分からず呆然としていたアズロだったが、昨日の失態ととラリマからの叱責を同時に思い出し自分の行いに自信がなくなる。何か余計な事をしただろうか、よく分からないがセドニーに近寄るなと言われた事が強烈で思考が止まってしまった。
この狭い部屋に二人きりでいるという現実から逃げ出すためにセドニーは必死になって荷造りをする。
恋愛小説にハマるくらいだ、ロマンスは大好きに決まっている。突然目の前に現れた綺麗な顔つきの青年が自分を守ってくれると言ってくれ、自分の持てる全てで支えていくと言ってくれているのだ。誠実に、まっすぐに自分の目を見て、全身で自分を求めてくれている。
「恋愛小説なんてもんじゃない…。」
堪えきれず口からこぼれた言葉はアズロに拾われていないだろう。正直言うと嬉しい、段々と実感がわいてきて喜び始めている自分があさましい。まるで恋愛小説、アズロにはその資格があるだろう。でも自分には魔力しかないのでは?そこに行きついて拳を握った。
また違う不安が生まれたが、とりあえず目の前の引っ越し作業に専念することにしたのだ。