「…それは。」
「実感がないのはどうしようもない…でもその目で見たはずだ。俺を占った時に占いの先から現れた自分の姿を。」

それがどういったことなのか、当たり前のことではないことは感じ取ったのではないか。アズロが続けた言葉にセドニーは不安の色を濃くさせた。

周りの反応がどうこうじゃない。自分自身、本当に信じられない光景を目にしたのだ。只事ではないかもしれないと確かにその場で肌で感じ取っていたのは確かだった。

ただ自分でまだ受け入れられないだけの話。

思考がこれ以上巡ることを拒否したのか、セドニーは力なくその場にゆっくり崩れて床に座り込んでしまった。アズロが手を出して支えてくれた事も感覚として拾えないくらいに呆然としてしまっている。そんなセドニーと合わせるようにアズロは屈んで彼女の表情を窺った。

一度に入ってきた情報が処理しきれていないのだろう、戸惑いからの陰りがその目に宿っている。

「貴女が自分の力を受け止めて、これからの生き方を見つけられるまで俺が必ず貴女を守る。貴女が自分の身の守り方を見つけた後も変わらずに俺は傍にいる。」

今のセドニーには支えが必要なのは確かだった。しかしそこまでしてアズロが自分に尽くそうとしている姿勢もまた理解できなくて、その事が尚更セドニーを混乱させている。

「どうして?もしかしたら怪我をするかもしれないのに?」
「承知の上だ、元より怪我をするつもりはない。」
「でもいくら…あなたの言う対の魔女だからって…。」
「対の魔女だからだ。」

当然の様に言い切るその態度がセドニーには理解できなかった。訝しげに目を細めるセドニーにアズロはよりその思いを伝えようと身を少し乗り出して金色の瞳に力を宿した。

「生涯の伴侶を、自分の半身を守る為なら命もかける。魔獣とはそういうものだ。魔獣でなくてもそうじゃないのか?」

生涯の伴侶を。
自分の半身を。

時間が経つことに比例して理解していくセドニーの思考は暴走しそうに乱れる。

「は、伴侶!?」

顔を真っ赤に叫んだ第一声がその一言だった。

「は、伴侶って、え!??誰がっ…ええ!?」

さすがのアズロも驚いたのか目を丸くして素早く後ずさりで距離をとっていくセドニーを見送っていた。

「…言わなかったか?」
「き、聞いてないです!」
「だが、貴女の師も対の魔獣と確かな絆を結んでいただろう。」

そう言われて思い出したのは確かにお互いを必要だと認め慈しんでいる二人の関係だ。しかしそれは二人が長い時間をかけて培ってきたものだとセドニーはそう思っていた。苦楽を共にして、お互いを信じ支えあえる存在になっていったのだと。

「あれは、二人が長い時間をかけて出来上がった関係性です!会ったばかりの私達とは全然違う!」
「しかし魔獣にとっての対の魔女とは生涯を共にする…。」
「あ、会ったばっかりの、ああああなたの恋人になるっ…てことですか!?まだ全然お互いの事何も知らないのに!?」
「それは今から知っていけばいい。」

アズロが当然のように言いのければセドニーは返す言葉を失ってしまった。言われてみれば確かにこれから知っていけばいいのかもしれないが、どうにも抵抗したくなるのは仕方がない。

これだけ綺麗な顔をしている人間はそういった関係に慣れているのかもしれないが、こっちは仕事に必死で打ち込み恋愛小説を読んで心を満たしているようなレベルなのだとセドニーは睨みたくなった。

「一気にいろんな事を言われて頭が付いていかない…。とりあえず、魔女の修行や魔法屋の仕事に集中したいんです。」
「ああ、勿論だ。」

とりあえず自分の希望を受け入れてくれた安堵から顔を上げれば、待ち構えていたようにアズロと視線が合う。反射的に逃げ出したくなったが、どうもそうはさせてもらえないと本能的に悟ってしまった。

「本来、魔女と魔獣の関係は魔女が一人前になっているところから始まる。まずは貴女の魔力を安定させることが先決だ。」
「…はい。」