「師匠の家ですか!?」
「そう、勿論彼もね。」
「え!?」

突然の提案にセドニーは目と口を大きく開いて驚きを表現した。自分だけでも驚きなのに、まさかのアズロも一緒だと言われ半ばパニックに近い。アズロを見れば驚いた表情はしているものの、セドニーほどではないようだった。

「でも、私…まだっ。」
「ええ…まだ彼を受け入れるかどうか決められていないのよね?分かっているわ。それでもセドニーの力がこうやって露見した今、彼に守ってもらった方がいいと私が判断したの。大丈夫よ、だから絶対に対の魔女にならなきゃいけないって事はないんだから。」
「そうは言っても…。」

近くに住むようになったら余計に断りにくくなるのではないか、セドニーは自分の決断力に自信がなくて不安になる。全ての事態を把握して飲み込むには時間がかかりそうだった。

ここまで来ても実感がまるでない。自分以外の3人は事態を把握しているというのに当の本人がどこか他人事だ。なんだかどうでもよくなって密かにため息を吐いた。仕事に集中して少しでも頭から離したい。

「そうね、今日は休みにして彼に手伝いをしてもらって荷物を運びましょう。あなた達なら鍵が開くように魔法を変えておくわ。」
「え、私今日は働けないんですか!?」
「善は急げ、ね?」

まさかの逃げ道を封じられてセドニーはあからさまに悲しい顔をした。逃げ道でなくても魔法屋の仕事はセドニーにとって生きがいみたいなものだ、それを奪われては嘆くしかない。

「二人分の部屋を用意しておくから…さ、今日はもう帰りなさい。夜に屋敷で会えるのを楽しみにしてるわ。」

有無を言わさないラリマの言葉に取り付く島もない。セドニーは了承の返事以外を用意されていないので、それと感謝の言葉を述べて自分のアパートへと戻ったのだった。
でも当の本人はいまいち事の重大さを感じ取れていないのだ。

「…あの、本当に来るんですか?」

やっぱり納得できない、腑に落ちない感情が踏みとどまらせてセドニーは尋ねた。

「というより…私って本当に引っ越さないといけないんですか?」

アズロを部屋の中に入れることでさえも躊躇ったのだがそこは我慢して招き入れる。何から準備をすればいいのか、そうアズロから尋ねられて答える代わりに思い切って聞いてみたような形の言葉だ。

「師である彼女がそうしろと言った。貴女はそれに従うべきだと思う。」
「それが何故なのか私にはよく分からないんです。あなたは分かるんですか?」
「分かる。貴女はこの先きっと占いをすることで多くの魔獣や魔女に干渉してしまうと思うから。」

さも当然のように口にする干渉という言葉が何を表しているのかがよく分からない。声にせずとも表情がそう訴えていたようでアズロは少し考えるようにセドニーから視線を外すと小さく思案の声を漏らした。

「強い力の影響力、というものをどう考える?」
「強い力の影響力?」
「例えば、道を歩く時でさえ親の手が必要な幼子がこの国の王だったとする。その子が誰も伴わずに街中を歩いているとしたら?」
「あ、危ないと思う。」
「何故?」
「だって…迷子になるかもしれないし、もしその子が王様だって誰か悪い人が知っていたら…っ!?」

狙われるかもしれない。思わずその言葉を飲み込んでセドニーは全てを察知した。
そうか、成程。セドニーの立場はそういう事だったのだ。

自分はまだ見習いの立場。強い魔力を持った見習いの魔女とは、道を歩く時でさえ親の手が必要な幼い王様と同じだという事か。

「初めてした占いに俺が関わっていた。これが幸運か導きかは分からない…でも貴女に何か起こる前に出会えたことは感謝している。これからは俺が貴女を何があっても守り抜く。」

不安に震えるセドニーにアズロは真正面から向き合ってしっかりとその言葉を告げた。目を見て、声に力を宿して、心の底からの誓いを告げた。