「でもセドニーにはそういった要因は無いように感じるわ。本当に珍しいのよ、人間でこんなに深みのある魔力を持っていることって。」
「…はい。」

その言葉は初めて会った時から度々に師匠から言われていることだったからよく耳に馴染んだ。だからといって驕らずに堅実に力を見つけていかないと身を亡ぼすとも言われてきた。

「もし貴女が魔獣と繋がりを持てる魔女だとしたら、それはとても稀有なこと。私をも超えて大魔女になる可能性だって大いにあるわ。」
「大魔女だなんて…そんな…。」
「しかも彼はまだ見習いである貴女を見つけた。元々潜在能力の高さを見たから貴女を弟子にしたけど…ここまでの事になるとは思わなかったね。」

本当は少しの動揺もしていないくせに肩をすくめて語るラリマにどこか芝居じみた場の和ませ方を感じてつい笑ってしまう。自分の中にそんな大層な力が潜んでいるとは到底思えない。

でも師匠がそういうのだからそうなのだろうと今も静かに受けとめているだけのセドニーだ。魔法に関してラリマは一切の冗談も嘘も言わない。そこには真実しかなく、受け止めることが魔女として正しい判断なのだとこれまででしっかり学んできていた。自覚がない事だけが残念だ。

「本来魔獣は世界の理の核となる存在で私たちが占いでは触れることが出来ないもの。でも力が強い魔女や自分の対となる魔女であれば占いの中で魔獣に触れることが出来る。」

ラリマのその言葉にアズロは頷いた。

「彼は見習いの魔女であるセドニーが占いで自分に触れて驚いたのよ。自分の対になる魔女を見つけたと。」

セドニーはアズロを見上げるとアズロもまたセドニーを見つめていたようで目が合った。彼の金色の双眼は強い意志をもってセドニーを射抜く。自分の中の考えが正しいのだと強く訴えているようだ。

その凄みにセドニーは息を飲んだ。

「いくら対になる魔女とはいえ、見習いの段階で触れるのはかなり珍しいわ。一人前になって…そうね、しばらくは魔獣の方が受け入れを拒んでいることが多いと思う。」
「どうしてですか?」
「自分に見合うだけの魔力を求めているのではないかしら?」
「魔女と魔獣は対等だ。自分の魔力より劣る魔女に魔獣はさほど興味を示さない。それが対になる魔女であってもだ。…対になる魔女だからこそかもしれない。」

そこはよく分からないと首を傾げたラリマにタイガが口を開いた。

「魔獣は魔女の魔力に惹かれて力を貸す。そうすることで魔女は己の魔力を強めることが出来る。支えあって生きていくのが関係性だ。」
「魔女は魔獣の力をかりて自分の持つ力をより強く、大きく発揮することが出来るわ。幸い私はそんな状態に陥ったことはないのだけれど…それこそ物語になるくらい昔にあった魔女の戦いではその絆の強さが試されたようよ。」
「そんな大層な事をしなくてもいい。」
「そうね。今このひと時を生きるだけでも私たちは常に世界に触れている。強い魔力を持ったいびつな存在である私をタイガが守り世界の粒子のひとつとして生かしてくれている。」
「当然の事だ。」

タイガの言葉にセドニーの胸が高鳴る。目の前にいる二人は魔女と魔獣、対になる関係だ。二人は惹かれあって支えあって生きている、そう告げられて胸が痛くなるほど速足で鼓動が駆けていた。
それはまるでお互いが唯一無二の存在だと言っているようなものではないか。

そう考えるとセドニーの頬が赤く染まり、二人をまっすぐ見ることが出来なくなってしまった。

「セドニー?」
「あ、すみません。なんだか…その、お二人が恋人同士みたいで眩しくて。」

急に恥ずかしくなってしまったと続けるセドニーの声にラリマは目を丸くする。両手を頬にあてて恥ずかしがる弟子のなんと可愛らしいことか。
凛とした表情が完全に緩んだラリマは嬉しそうにセドニーの頭をつんつんとつついた。