師であり親代わりである人物に全てを告げるかどうか、アズロの中に迷いはなかった。それにアズロは最初から気が付いていたが、セドニーの師である彼女も魔獣と繋がりを持っている。それはアズロの中で大きな意味を持っていた。

さらにタイガは黒鹿だ。かなり高位の魔獣の対の魔女、何の申し分もなかった。話が通じる相手だと最初から信じて疑ってなかったのだ。途中のいざこざで少し不安もあったが親心からという事であればそういうものなのだろうと納得せざるを得ない。

関係性の形など様々なのだから。

「昨日、俺はこの耳飾りを市場で落とした。…それを拾ったセドニーが占いで持ち主である俺を探してくれたが、その占いが落とした直後の俺に干渉した。」

突然にラリマの質問に答えたアズロへ全員が注目をする。これまでの部屋の空気が一変してラリマの表情も引き締まった。質問に答えたことよりも、アズロが話したその内容に空気が変わったのだ。

「干渉?」
「引っ張るような引き込むような…そんな魔力を感じた。俺は導かれてセドニーの部屋に向かったんだ。最初は俺を引き込もうとする魔女が何かを仕掛けてきたと思ったから牽制する為に乗り込んだ。」
「牽制…成程ね。」

アズロの言葉に理解を示したラリマが頷いた。

「しかし行ってみればそこには彼女しかおらず、媒体に使ったと思われる物は低級の魔具だった。聞けば落とし物の持ち主を占っただけだと言う。返してもらった耳飾りを付けた瞬間、セドニーの魔力に触れてこれが俺に干渉したものだと確信を持った。」

そうなのか、とアズロの話を聞いてセドニーは静かに頷きながら納得していた。口を開けたままこちらを見上げてくるセドニーに思わず笑みがこぼれてしまうが、アズロもすぐに気持ちを切り替えてラリマの方に戻る。これはアズロの願いを告げる合図だ。

「強引な事をしたという自覚はある。しかし、聞けば聞くほど危険だとも判断した。」
「…そうね。」
「セドニーが俺の魔女だという事は分かっている。でもそれをはっきりと確かめたくて俺を占ってほしいと頼んだんだ。」
「それで…人物を占う許可が出ていないと言われて師である私のところまで来たと。そういう事ね。」
「ああ。」

ふうん、そう息を漏らしてラリマは背もたれに身体を預けた。少しの間思案していたかと思うとタイガを見上げて視線だけで何かを問う。タイガは微かに顎を引き、ラリマは小さく頷いた。

「…セドニー。」
「はい。」
「さっきも言ったけど、貴女はまだ見習いなので魔獣の事は教えていないわ。占いを覚えたら話すつもりでいたのよ。」
「はい。」

まるで大きなことを隠していたかのような言い回しにセドニーに緊張が走る。心なしか背筋が伸びて膝の上にある手は硬く握りしめられていた。

「まず、一人前の魔女になったからと言って全員が魔獣と共に生きるわけではないの。精霊の力を借りるだけの魔女もいれば、使い魔と契約をかわす魔女もいる。魔獣と対になる魔女は極僅かな…稀にみる魔力を保有する魔女だけ。」

ラリマの説明人セドニーの頭の中で同じ魔法屋で働く面々が浮かんでくる。あの人は精霊を、あの人は使い魔を確かに肩に乗せたりしていた。そのことを思い出していたのだ。
しかし師匠であるラリマが魔獣を連れていたことは今の今まで知らなかった。
何となくだが、高位の精霊と契約をしているのだと思い込んでいたから。

きっと五人いる星の部屋の魔女全員がそうなのだろうと思っていたのだ。

「星の部屋の魔女五人の中で魔獣と対になっているのは私だけ。貴女に言っていなかったかもしれないけれど…私はエルフの血が入っているからその事も大きく関わっていると思うの。」

それは何となく気付いていたことだったのでセドニーは短く頷いて納得の意を示した。ラリマの見目麗しい姿からは安易に想像できたことだ。
いつまでも年を取らない、見た目が変わらないラリマをそう思っている人は多かっただろう。