「え?」
「セドニー、ここにいるタイガも魔獣なのよ。彼は私と繋がりを持っているの。」
「え!?」

突然の告白にセドニーからは遠慮がない疑問符が飛んだ。にこにこと笑みを浮かべるラリマの傍で今日もいつもと変わらずタイガの表情筋は仕事をしていない。いや、今はそこを気にしている場合ではないとセドニーはすぐに気を取り直した。

タイガもアズロと同じ魔獣で、しかもラリマと繋がりを持っていると告げられたのだ。

「タイガは黒鹿なの。」
「…蛇かと思った。」

セドニーの呟きにタイガの力が眉間に集中する。途端に彼の睨みは鋭さを増してセドニーを突き刺した。強烈な威圧にセドニーの背筋がこれ以上にないくらい伸びて冷や汗が噴き出す。

「ふふ。すごく綺麗なんだけどね、独り占めしたいから見せてあげない。」

黒い念の様なものを無言で発してくる陰湿さを持ったタイガとは対照的にラリマはふわりと楽しそうに笑う。この二人の並びはセドニーが今までよく見た景色だと、ようやく普段の師匠に戻ったかと安心したセドニーはふと疑問が浮かんだので口にしてみた。

「支配人も黒色なんですか?」
「ええ。魔獣はみな黒いと聞いているわ。そうよね?タイガ。」
「魔女と繋がりを持つ魔獣は黒が多い。力の波長が似ているからな。身体の色が濃いほどにその魔力は強いとされている。」

タイガの言葉にアズロは静かに頷く。そうなのかとセドニーも感心の頷きを繰り返した。全てがセドニーにとって初耳だ。

「セドニー、貴女にはまだ魔獣の事は教えていないの。占いが出来るようになって、一人前の魔女として私の手から離れる時に色々と教えようと思っていたのよ。」
「そうなんですか?」

セドニーの問いにラリマが頷いた。しかしその先の答えをくれたのは意外にもタイガの方だ。

「通常、魔獣は魔女見習いと関わりは持たない。繋がりを求めるなら尚更、安定した魔力を求めるから見習いでは意味がない。」
「本当に…不思議よね。」

そう言うと三人の視線がアズロへと向けられた。何故アズロはまだ魔女としては未熟なセドニーに固執したのだろう。ただでさえ理解できなかったのに謎は深まるばかりだとセドニーは首を捻るしかない。

「理由を話してもらえるかしら。あんなに強引な態度をとったのだからぜひその動機を知りたいわ。」
「…師匠…目が笑ってません。というか、あんなに強引って…私師匠にそこまで詳しく説明したでしょうか?」
「え?」
「ラリマは君の話を聞いて直接その目で確かめるために占いで覗いたんだ。」

きみが彼を迎えに行っている間に、そう続けて聞こえたがセドニーの思考は止まったままだった。

「そんなことが出来るんですか?」
「え、ええ…まあ。」
「ラリマは常に君を見ている。落ち込んだ日があればその原因を探すため、機嫌がいい日があればその理由を見つける為。私利私欲で占っている。」
「…何の為でしょう?」
「きみに好いてもらう為だろう。」

タイガが抑揚のない声で暴露した内容はセドニーには信じがたく、ラリマには耐えがたく、アズロには理解しがたかったらしい。それぞれが分かりやすく表情に出す中でタイガは無表情を貫いていた。

「えっと…私は師匠を尊敬していますし、もちろん好きですよ?」
「セドニー!!」
「ずっと監視されててもか?」
「それは嫌だけど…。」
「こら!黒ヒョウ!!」

アズロの素朴な疑問にセドニーは微妙な顔をしたが、それが心外だとラリマは毛を逆立てた。他に言い方がないのかと食って掛かっていても同じ意見なのかタイガが背後から援護をする。

「普段からやりすぎだと言っていただろう。」
「でも…セドニーを見守る責任が私にはあるもの。」

そう眉を下げるラリマにセドニーは申し訳ない気持ちになった。

「師匠は私の親代わりでもあるから。」

アズロに小さな声で告げたセドニーはどこか仕方がないという表情だ。やりすぎは困るがそこまで嫌悪感を抱いていないのだろうとアズロは静かに察した。